岸田首相 米議会で演説 “国際秩序守るため大きな責任担う”(2024年4月12日『NHKニュース』)

アメリカを訪問中の岸田総理大臣は議会演説に臨み、ロシアや中国の行動などで自由や民主主義に基づく国際秩序が脅威に直面していると指摘しました。そして秩序を守るため、アメリカだけでなく日本もグローバル・パートナーとして大きな責任を担っていく姿勢を強調し、日米の結束を呼びかけました。

岸田総理大臣は、日本時間の12日未明、総理大臣としてはおよそ9年ぶりに、アメリカ議会の上下両院の合同会議での演説に、英語で臨みました。

この中で岸田総理大臣は、先の大戦後の世界の歩みについて「アメリカは経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、国際秩序を形づくった。自由と民主主義を擁護し、各国の安定と繁栄を促した。必要なときには尊い犠牲を払ってきた」とたたえました。

一方で「私たちはいま、人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいる。アメリカが何世代にもわたり築いてきた国際秩序は、新たな挑戦に直面している。それは、私たちとはまったく異なる価値観や原則を持つ主体からの挑戦だ。自由と民主主義は世界中で脅威にさらされている」と述べました。

その上で、具体例のひとつに中国を挙げ「対外的な姿勢や軍事動向は、日本だけでなく、国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦をもたらしている」と強調しました。

また北朝鮮による核・ミサイル開発やロシアによるウクライナ侵攻などにも触れ「核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が懸念している」と述べたほか、AIなどのデジタル技術による自由の抑圧や経済的な威圧といった脅威なども指摘しました。

そして岸田総理大臣は「ほぼ独力で国際秩序を維持し、孤独感や疲弊を感じているアメリカ国民に語りかけたい。アメリカは助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はない」と述べたあと、「自由、民主主義、法の支配を守るのは日本の国益で、人権が抑圧された社会を私は子どもたちに残したくない。日本はすでにアメリカと肩を組んでともに立ち上がっている。アメリカはひとりではない。日本はアメリカとともにある」と訴えました。

その上でみずからの政権のもとで防衛力の抜本的な強化に取り組んできたことや、強力なウクライナ支援を継続してきたことなどを説明し「日本はアメリカの最も近い同盟国という枠を超えて、今やグローバルなパートナーとなった」と強調しました。

一方、秋の大統領選挙を前に国内の政治的な分断が深まっていることも念頭に、日本の一連の取り組みについて「こうした努力に対し、アメリ連邦議会では、超党派の強力な支持がいただけるのではないだろうか」と語りかけました。

さらに日本がアメリカでの投資や雇用の創出で貢献していることを紹介し、成長志向となった日本経済が、アメリカへのさらなる投資拡大につながるという見通しも示したほか、アメリカによる月の探査プロジェクトなど、宇宙分野でも連携が深化しているという認識を示しました。

そして演説の最後に「私たちはともに大きな責任を担っている。日本はアメリカのグローバル・パートナーでありこの先もそうであり続ける」と述べ、自由や民主主義などに基づく国際秩序を守るため、アメリカだけでなく日本も大きな責任を担っていく姿勢を強調し、日米の結束を呼びかけました。

宇宙飛行士の星出彰彦さん ダニエル・タニさんが議場に 

演説では、アメリカが主導する月探査プロジェクト「アルテミス計画」での日米による協力の拡大が、先人たちによる功績の蓄積の上に成り立っていることをアピールしようと、日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんと、日系アメリカ人の元宇宙飛行士、ダニエル・タニさんの2人が議場に招待されました。

星出さんは、これまでに3回の宇宙飛行を行い、2021年には国際宇宙ステーションの船長を務め、タニさんは、宇宙での船外活動を6回経験しています。

岸田総理大臣は演説の「アルテミス計画」の部分にさしかかったところで、傍聴席の2人の名前を呼び、出席議員らに紹介しました。

そして「星出さんとタニさんは、宇宙における日米協力の象徴的な存在だ。両国は今後もこのような協力を将来にわたって築いていく」と強調しました。

岸田首相 ノースカロライナ州に到着

ワシントンでの日程を終えた岸田総理大臣は、日本時間の12日午前8時半ごろ、次の訪問先のノースカロライナ州に到着しました。現地では、トヨタの現地工場の視察や関係者との意見交換などを行う予定です。

米議会で演説した歴代首相

外務省によりますと、アメリカ議会で演説を行った日本の総理大臣は、岸田総理大臣で5人目です。

1954年に吉田茂総理大臣がアメリカ議会の上院で初めて演説しました。
1957年には岸信介総理大臣が上院と下院で個別に、
1961年に池田勇人総理大臣が下院で演説しました。

2015年に安倍総理大臣がアメリカを公式訪問した際は、上下両院の合同会議で日本の総理大臣として初めて演説しました。「希望の同盟へ」と題した演説の中では、先の大戦硫黄島での戦いに参加した、元アメリ海兵隊員と、旧日本軍の守備隊司令官・栗林大将の孫の新藤衆議院議員を紹介し、2人が握手を交わすと、議場から盛大な拍手が送られました。

今回、岸田総理大臣も上下両院の合同会議で演説を行いました。