依存症への支援 本人や家族の孤立を防ぎたい(2024年4月29日『読売新聞』-「社説」)

 ギャンブルや酒、薬物などにおぼれ、自分を制御できなくなる依存症は医学的な治療を必要とする病気である。当事者や家族を孤立させないための支援が欠かせない。
 米大リーグ・ドジャース大谷翔平選手の元通訳が米連邦検察に訴追された事件で、ギャンブル依存症が注目された。元通訳はスポーツ賭博で巨額の借金を抱え、大谷選手の銀行口座から不正な送金を繰り返していたという。
 米国精神医学会の基準では、ギャンブル依存の人は、負けを取り戻そうと再び賭けに走り、そうした事実を隠すために 嘘うそ をついて、重要な人間関係や仕事を失うといった特徴がある。元通訳にも当てはまる部分が多いと言える。
 日本でも18歳以上の約2%の人にギャンブル依存の疑いがあるとされる。最近は、オンラインカジノへの依存が社会問題になっている。コロナ禍で在宅時間が増え、自宅で手軽に始められることが広がりに拍車をかけたようだ。
 スマートフォンの普及で、ギャンブルだけでなくゲームに依存する人も増え、薬物も入手しやすくなった。そればかりか、スマホを昼夜を問わず手放せなくなり、動画の視聴やSNSの使用を長時間繰り返す人も多い。
 日常生活の中で依存症に陥るリスクは高まっている。スマホやゲームは、適度に楽しむ分には問題ないため依存に気づきにくい。特に心配なのは中高生への広がりだ。生活のリズムが崩れ、学校に行けなくなる子どももいる。
 依存症は誰もが陥る可能性があると認識すべきだ。深刻な状態になる前に、家庭や職場、学校などで異変に気づくようにしたい。
 自治体や医療機関のサイトには依存症のチェック項目が公開されており、自分の重症度を知る目安になる。心配な結果が出たら、医師の診察を受ける必要がある。
 依存症には有効な心理療法がある。当事者同士が語り合い、行動や考え方の偏りを修正していくもので、公的な医療保険が利く。
 薬物や酒のほか、ギャンブル、ゲームなどへの依存症にも活用されている治療法だ。民間の自助グループでも、同様に当事者同士で支え合う取り組みがある。
 依存症になると、理性的な判断ができなくなる。借金や暴力行為などの問題につながりやすいため、家族を巻き込んでしまう。
 家族が自分だけで解決しようとすると、精神的に追い込まれる。相談体制を整備するなど家族への支援も拡充してもらいたい。