「つばさの党」の候補者だった根本良輔・同党幹事長の自宅から看板などを押収する警視庁の捜査員ら=2024年5月13日、東京都練馬区東大泉6丁目
「選挙妨害」か「表現の自由」か――。4月28日に投開票された衆院東京15区(江東区)補欠選挙で、他政党の演説会場で大音量のヤジを飛ばしたり、選挙カーを車で追いかけまわしたりするなどの行為が批判されていた政治団体「つばさの党」。警視庁は13日、事務所や黒川敦彦代表(45)、補選に立候補した根本良介幹事長(29)それぞれの自宅計3カ所に、公職選挙法違反(選挙の自由妨害)容疑で家宅捜索に入った。選挙期間中、現場で取材していた記者が当時の“妨害”の様子を振り返る。
そもそも載っていいの?公衆電話ボックスの上から大音量で“妨害”
根本氏は、小池知事に対しては、
「カイロ大学を卒業しているのかちゃんと説明しろよ、おい、小池。開き直ってんじゃねーぞ」
などとがなりたてた。
■卑猥な言葉で“妨害”
彼らの“選挙運動”は後半戦に入っても続いた。
根本氏は大音量で、
「酒井さん、消費税上げるって言ってるけど、本当ですか。消費税上げないで下さい。ウソつかないでください」
などと声を上げた。
根本氏はさらに車から降りて、会場にいた人混みをかきわけるように酒井氏にぐんぐんと近づいていった。その場にいた立憲陣営のスタッフや聴衆が食い止めていたが、強引に接近すると、
「さっき、玉木さん(国民民主党代表)は答えてくれた。質問に答えてくれればオレらは違う所に行く」
と声を張り上げていた。
押し問答になっていると、聴衆からは「点字ブロックの上は空けてください」「邪魔するなよ」「あんた(根本氏)の話を聞きに来たんじゃないんだよ」「警察を呼べ」と怒号が挙がったが、それでも根本氏は引き下がらず、こう言い放った。
「妨害と言いますけど、これ、やる権利があるんですよ。警察官の方にも確認しました。これを規制する法律はありません、悪いけど。警察官とちゃんと連携を取ってやっているんで。酒井さん、答えた方がいいですよ。あんたが答えないから、この人たちは演説が聞けないんですよ。答えたらいいじゃん」
そして独自の立憲批判を展開すると、聴衆からは「帰れコール」が起きた。
ついには立憲陣営が、
「本日の街頭演説会は中止とさせていただきます。誠に申し訳ありません」
とアナウンスし、酒井氏は演説することなく選挙カーに乗った。
■「クソみたいなやつらが政治をやっている」
それを見た根本氏はさらにマイクで、
「バカがいっぱいいて立憲に投票するから、消費税を減税すると言って消費税が上がったりするの。ウソついたじゃん。なんで目が覚めないの」
「民主党(政権)がつぶれて自民に戻ったでしょう。だから与党も野党もダメだってなって、どこの政党も応援できないってなったんじゃん。こういうクソみたいなやつらが政治やっているのがおかしい。だから、こういう集団が現れる。わかるでしょう」
などとまくし立てた。
立花氏は、黒川氏との間で争っている件について、黒川氏に質問しにきたといい、その後、黒川氏が反社会勢力に金銭を「支払った」「支払っていない」などといったやりとりが約30分続いた。おおよそ、政策論争とはかけ離れたものだった。
最後、黒川氏は「タッチー(立花氏)ありがとう、イエイ」などと言って、黒川氏から手を差し伸べ、立花氏と握手をして、立花氏は去って行った。
根本氏は再びマイクを取り、自分たちがやっていることをこう正当化した。
「みんな納得する方法ってないんで。多少、『うるせぇ』と言われても、それでもやる価値がある。やって成功しているんで。こんなに多くの方が見てくれるって、普通に選挙してたら、こんなことありえないんですよ。お母さんだって立憲の支持者の方だと思うんですけど、僕のチラシを受け取って、僕の演説を見てくれてるわけじゃないですか。メチャクチャ興味持ってくれてるわけじゃないですか。実績を作れたと思うんで、これからもこういう選挙戦略でやらせていただきたいなと思うところです」
黒川、根本両氏の“妨害”は演説会場だけにとどまらなかった。
日本維新の会の候補者、金沢結衣氏陣営のスタッフは、
「つばさの党からの襲撃がひどくて。私どもの選挙カーについてきて、ワーワー言っている。だから、写真とか動画をなるべく控えてもらっています。いろんな人が情報を向こうに伝えて、向こうから突撃されちゃったりするので。今日もカーチェイスしました。後ろからずーっとついて来るので。あおり運転に近いです」
と話した。
■候補者の下で太鼓をたたきながら叫ぶ
選挙カーの上で演説する金沢氏のすぐ下で、太鼓をたたきながら何かを叫んでいる黒川氏の様子を映している動画もあった。
また、吉村洋文・大阪府知事が金沢氏の応援に入っていた日には、金沢氏と吉村氏が歩いて移動しているところに根本氏が近づこうとし、
「おい、よしむらー! 万博に使ったカネ返せ、こら」「チキン野郎が、答えられねーか?」
などと怒鳴り、スタッフが根本氏の前に入って近づけないようにすると、
「このゴキブリどもどかせ、よしむら!」とエキサイトし、罵声を浴びせ続けた。
24日は門前仲町で参政党の吉川里奈氏の街頭演説を取材した。つばさの党の“妨害”について質問すると、吉川氏はこう答えた。
「参政党は3年前からずっと妨害されている政党です。今回だけじゃなくて、2年前の参院選のときからずっと妨害されていますが、メディアは取り上げてくれませんでした。私たちはそこと戦ってきています。目の前で大きな声で、ずっとワーワー言われながら演説してきました。今も来ます。だけど、スルーするんですよ。相手しちゃダメなんですよ」
日本保守党の飯山陽氏は投開票日前日の27日、門前仲町での街頭演説でこう語った。
「今日ね、何回も、あの例の連中に妨害されて。何回も何回もですよ。私たちつけ回されて、逃げ回って、何回も街宣のチャンスを逃しました。今日の数時間ムダにしました、あいつらのおかげで」
■上脇教授「選挙のやり方をはき違えている」
神戸学院大学の上脇博之教授は、今回の黒川、根本両氏の行動についてこう話す。
「演説をしている時に、演説の内容が聞こえないくらいだと、これはもう妨害になりますね。たとえば、肉声でマイクも使わず、拡声器も使わずに、一言ヤジを飛ばしたくらいだと、演説を聞けないということにはならないので、妨害にならない」
今回のつばさの党のケースは公職選挙法の「選挙の自由妨害罪」に抵触する可能性があるという。
「表現の自由があるから、ということでやったようですけど、演説している人は聴衆に聞いてほしいから演説をしているわけです。政策を訴えるのが選挙なのに、それを聴衆に聞いてもらえないということになると、演説している意味がなくなる。聴衆も演説を聞きたくて足を止めているはずです。(つばさの党は)選挙のやり方をはき違えています。議論したかったら、相手の演説が終わってからやればいいんですよ」
■4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金
違反した場合はどうなるのか?
「4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金で、候補者が買収した場合と同じで結構重いです。候補者が政策を訴えようとすることを妨害するということは、民主主義における選挙の妨害ですから重い罪なのです」
一部、前述したが、黒川、根本両氏の言動には、政策論争とはかけ離れたものが多い。「クソ女!」などといった罵詈(ばり)雑言を他陣営の候補者らに浴びせている場面も多くみられた。「表現の自由」とは何を言ってもいい、ということと同義ではないはずだ。
(AERA dot.編集部・上田耕司)