この人たちに常識は通用しないようだ。5月13日、警視庁から公職選挙法違反容疑(自由妨害)で家宅捜索を受けた政治団体「つばさの党」の面々である。自宅などにマスコミや機動隊が集結したことで大はしゃぎ。夕方には、東京都練馬区にある小池百合子東京都知事の自宅に十数人の支持者を連れて「逆ギレ街頭演説」を敢行した。小池氏の自宅前は約50人のマスコミや警察官が集まり、大混乱となった。
「うるさい」と注意した住民にも支持者が「逃げるな、卑怯者!」と罵倒まで
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「今日はお持ち帰りできそう」とはしゃぐ幹部たち
「今日、このまま小池百合子の家行こうと思うんだよね」
「警視総監は?」
「警視総監はパクられた後に支持者にやってもらった方が。そっちは大トリなんで」
軽口を叩き合っているのは、「つばさの党」党首の黒川敦彦氏(45)と幹事長の根本良輔氏(29)、組織運動本部長の杉田勇人氏(39)の3人である。時刻は午後2時過ぎ。警視庁の家宅捜索が行われた直後のYouTube配信である。懲りた様子など微塵もない。
黒川氏は「さぼてん」のカツカレーを頬張りながら、「機動隊なんて連れて、ヤクザの事務所じゃないんだからさぁ」と爆笑している。「やればやるほど俺ら喜んじゃうもんね」。
しまいに、
「よし、今日はニュースになったつばさの党だよって、クラブに飲みに行こう」
「行こう!」
「今日は(ホステスたちが)心配してくれているから」
「全員が持ち帰れるね」
この状況を楽しんでいるようにしか見えないのだ。そしてこの後、飲みに出かけたかどうかはわからないが、小池氏の自宅には本当に押しかけてしまったのである。
小池氏の自宅前で拡声器を使って「クソババァ」
午後6時。黒川氏がXで集合場所に指定した小池氏の自宅近くの交差点には、約30人のマスコミと数人の支持者が待ち受けていた。
「マスコミは創価学会の真相をちゃんと伝えているのか!」と支持者らしき男性が一人ぶつぶつ喋っている。やがて、黒川氏らが姿を現すと、待ち構えていた報道陣は雪崩を打つように追いかけ出した。
「いやいや、すごいねぇ。おもしろすぎるなぁ」
集まった報道陣の多さに黒川氏はご満悦な様子。数分歩いた先の小池氏の自宅前に着くと箱型の拡声器をおいて、杉田氏が「クソババァ」「経歴詐称も暴露されているぞ」と第一声を上げた。
続いて上下スウェット姿の根本氏がマイクを握る。
「また来ちゃいました、小池百合子自宅前でございます。今日は俺らの人数の3倍くらいの人数のマスコミの人たちとやってます」
「ヘイヘイヘイ」と囃し立てる10人くらいの支持者たち。YouTuberなのか動画を回している人も多い。女性も2人くらいいた。
「今日も読売の夕刊の一面を飾っちゃったりしている。あたかも我々が悪いことをしているような印象操作が繰り広げられている。非常に憤りを感じているところでございます。こういう不当なガサ入れだったり、警察を動かしているのは小池以外にはありえないので。警視総監に泣きついているというのは証言としてあるので、”お前のせいだろ”ということで今回来ています」(同)
謎のラッパーも出現
「我々を暴力的な集団だみたいに印象操作していますが、言っときますが我々は暴力を受けた側ですからね。あくまで我々は言論で勝負をしているんです」(根本氏)
その後、杉田氏の批判演説の後に出てきたのは、20代と思しき水色のキャップを被った謎のラッパーだった。
大トリの黒川氏は、ひたすらメディア批判をぶちまけた。
「うるさい」と注意した通行人を罵倒する支持者
支持者の女性から「そうだ、そうだ」の声が上がる。
「どうせ(取材で撮った内容を)使わないでしょ、使わないよねー! だから、みなさんの視聴率も下がっているんだろうが。下がっているよね、若いヤツ、テレビ見ないからな! お前らがこんなことやって…」
こうしてつばさの党のメンバーたちは、約40分にわたり住宅街のど真ん中で言いたい放題、拡声器で叫び散らした後、支持者に囲まれながら去っていった。
小池氏は不在だったようだが、近隣住民はうるさくて迷惑千万だったろう。閑静な住宅街である。途中、たまりかねた通行人の男性が「お前ら、迷惑だろ。やめろ」と割って入ったが、支持者たちは立ち去る男性に「卑怯者―、逃げるなー」と罵声を浴びせていた。
警察関係者は「逮捕する可能性はある」
どうやら家宅捜索はかえって彼らの闘争心に火をつけてしまったようだ。このまま彼らの暴走を止めることはできないのか。警視庁関係者は「警察も手に焼いている」と明かす。
「現行の公職選挙法は、具体的にどの行為が選挙妨害にあたるなどと明示していないため、立件は難しいというのが当初の警視庁の考えだった。ただ、国や検察、都の意向も無視できなくなり今回の家宅捜索に踏み切った」
つばさの党は事情聴取に応じると話しており、「一般論で考えると、身柄を取るのは難しい」と続ける。
「彼らが罪を認めれば略式起訴して罰金刑となるでしょうが、それは考えにくい。そうなると在宅起訴して裁判となりますが、結論が出るまで時間がかかってしまう」(同)
「阻止するには彼らを逮捕するしかない。可能性はあると思います」(同)
前回の選挙のような暴挙を許さないためにも、公選法改正も視野に入れて議論していく必要があろう。
デイリー新潮編集部