都が波対策として設置した装置には思いがけずカキが大量発生し、多額の対策費を迫られているが、もう一方の風対策でも…。(加藤豊大)
◆100メートル先に巨大風車
波だけでなく風も、レースに大きな影響を与えるとして、計画段階から競技団体が対策を求めていた。
強風対策として、都が講じたのが防風林だ。
コース南側の1万平方メートルのエリアに、高さ6.5メートルの防風林1200本を植えた。
コース南側に整備された防風林=東京都江東区で
海の森水上競技場は、五輪後も解体せず、大会を誘致したり、一般開放したりすることになっている。
都が2017年、五輪後の後利用についてまとめた施設運営計画では、五輪後の競技場の収支について年間1億5800万円の赤字を見込んだ。
ところが2022年度、その額は2億4600万円に。当初の試算より9000万円近く赤字が膨れ上がっていた。
◆防風林の維持費、赤字押し上げ
赤字を押し上げた要因の一つが、防風林だった。
2022年度、計画段階に盛り込まれていなかった防風林の下草刈りや肥料やりといった管理費に約3000万円がかかっていた。
なぜ、東京都は防風林の管理費を盛り込んでいなかったのか。
都スポーツ施設部の浅田宗(そう)施設整備担当課長(3月当時)は「当初から強風対策が必要なことは把握していた。ただ施設運営計画の段階では防風林について詳細が固まっていなかったため、管理に必要な金額は対策が確定した後に計上することになった」と説明する。
都によると、今後も、防風林の維持管理費に毎年2000~3000万円かかるという。
◆国際大会は2年間でゼロ 3年ぶり開催に沸く
五輪後の利用実績も思わしくない。
都は当初、ボートやカヌー、トライアスロンといった競技大会を年間30回(うち国際大会を4回)開催し、35万人の利用者を集めるとの目標を掲げた。
しかし、2022年度は大会12回で利用者6万人にとどまった。2023年度は大会を31回開き、利用者数は集計中という。
両年度とも、国際大会の開催はなかった。今年4月18日に始まるカヌースプリントアジア選手権大会が、初の国際大会となる。
東京都スポーツ施設部の小宮山徹・前施設整備担当課長は「一般的に国際大会はぱっとすぐきまることはなく、誘致には何年もかかる。2022年度はコロナ禍とも重なっていた。大会誘致が本格化するのはこれからです」と説明する。
◆「後利用の議論、熟さぬまま建設」
中京大の舟橋弘晃准教授(スポーツ経済学)は「五輪のような大規模イベント開催のために整備される施設は、完成を間に合わせることが最優先課題となる。30~40年続く施設の後利用や収支の議論が熟しないまま建設がどんどん進むというのは、ありがちな話だ」と言う。
一方、「赤字分にはスポーツ振興といった公共サービスの提供コストが含まれる。民間主導ではできない施設を東京都が担い、サービスを都民らが享受する仕組みで、赤字だからといって一概にだめだというわけでもない」と説明する。
「とはいえ、ただ単にスポーツ振興だけのコストとなると、都民らからの風向きも厳しくなる。高校や大学の合宿をより積極的に誘致して教育活動を展開したり、防災強化の観点から水難救助訓練の拠点としたり、見晴らしの良い立地を活用してドローンショーを開いたりと、多面的な価値を生み出す工夫をすることが必要だ」と語った。
海の森水上競技場 東京五輪・パラリンピックの競技会場として新設された都の恒久施設の一つ。招致時に69億円とされた整備費は計画段階で491億円に高騰。小池百合子知事が見直しを表明し、宮城県の長沼ボート場を会場とする案なども一時検討された。最終的には308億円かけて、2019年5月に完成した。東京五輪後も解体せず、2022年4月から一般開放されている。