中国人教授不明 学問の自由を脅かすのか(2024年4月26日『産経新聞』-「主張」)

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亜細亜大の范雲濤教授(関係者提供)
 
人権侵害の恐れだけではない。日本の学問の自由が脅かされていると強く懸念する。
亜細亜大の范雲濤教授=中国籍=が一時帰国後、1年以上も所在が分からなくなっている。中国当局に拘束されている可能性があり、林芳正官房長官は22日の記者会見で「人権にかかり得る事案で、関心を持って注視している」と述べた。
神戸学院大の胡士雲教授も昨年夏から中国で行方不明になっている。ほかにも日本の大学に所属する中国人研究者が一時帰国中に拘束されたり、失踪したりするケースが複数ある。放置できない問題である。
中国は事実関係を明らかにし、拘束しているなら直ちに自由の身にしなければならない。日本政府は事態を注視するにとどまらず、安否確認や解放を強く申し入れるべきだ。
范教授は国際法政治学が専門で、令和5年2月、実家のある上海に一時帰国した。同年4月には日本に戻る予定だったが、消息を絶ってしまった。現在も日本にいる家族と連絡が取れていない。范教授は行方不明になる前、「当局者に同行を求められ、尋問を受けた」と周囲に話していた。
中国外務省の汪文斌報道官は22日の会見で、范教授の失踪について「関連する状況を把握していない」と述べたが、疑念は深まるばかりだ。
中国で2014年に反スパイ法が施行されて以降、日本から一時帰国する中国人研究者の拘束が相次いでいる。8年前には法政大教授(当時)が一時拘束された。5年前には北海道教育大教授(同)も拘束され、その後スパイ罪で起訴された。
さらに中国は昨年7月に改正反スパイ法を施行し、摘発を強化した。中国籍であっても日本で活動する研究者らを不当に拘束することは、日本の学問の自由を踏みにじるものである。政府は、彼らが日本で自由に学問や研究ができるよう中国に要求すべきだ。
この問題で日本学術会議が積極的な動きを見せていないのも残念である。抗議声明を出すべきではないか。
日本人も反スパイ法施行後、昨年のアステラス製薬社員を含め中国で17人が拘束され、うち5人は今も自由を奪われたままだ。政府は、早期解放と帰国を実現しなければならない。