中国でも元慰安婦遺族が日本政府を初提訴 新たな火種となる恐れ(2024年4月22日『毎日新聞』)

中国の国旗=ゲッティ
中国の国旗=ゲッティ

 日中戦争時に旧日本軍から性暴力の被害を受けたとする中国人元慰安婦の遺族が4月、日本政府に対し、謝罪と1人あたり200万元(約4200万円)の損害賠償を求める訴訟を山西省高級人民法院高等裁判所に相当)へ起こした。原告の弁護団が22日、明らかにした。

 中国メディアによると、慰安婦問題で日本政府を相手にした訴訟が中国で起こされるのは初めて。共産党の指導下にある中国の裁判所が訴訟を受理するかどうかが今後の焦点で、日中関係の新たな火種となる可能性もある。

なぜ今、提訴?

 弁護団によると、提訴したのは山西省の元慰安婦18人(いずれも死去)の遺族。中国での裁判に踏み切った背景には、2021年と23年に、韓国の裁判所が慰安婦訴訟で日本政府に損害賠償を命じる判決を下した影響があるという。弁護団の一人は「慰安婦問題を巡り、日本政府に賠償と誠実な謝罪を求める考え方は、中国や韓国、フィリピンなどアジアの国々で基本的に一致している」と指摘した。

 1990年代以降、中国人元慰安婦は日本で同様の裁判を相次いで起こした。だが、07年の最高裁判決は元慰安婦への暴行の事実を認定しながら、72年の日中共同声明に記された賠償請求権放棄の規定を理由に訴えを退けた。今回の訴訟を起こした18人の遺族の多くは、日本の訴訟で敗訴しているという。

 弁護団は「日中共同声明は個人の人権侵害への賠償請求を否定していない」と主張。そのうえで、日本政府に賠償を命じた韓国の判決と同じく、慰安婦制度は「反人道的犯罪行為」にあたり、主権国家は他国の裁判所に裁かれないとする国際法上の原則「主権免除」は認められないとの論理を展開している。【北京・河津啓介】