噓の口コミ見抜く目を、医師らがグーグル提訴(2024年4月21日『産経新聞』-「産経抄」

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米グーグル本社に掲げられたロゴ(共同)
 
 相手の急所を突く批評の筆は、よく「針(頂門の一針)」や「小さな刃物(寸鉄人を刺す)」に例えられる。例外もあるようで、いまは亡き評論家の谷沢永一さんが振るった筆は、相手をばっさりと両断する快刀そのものだった。
永井荷風断腸亭日乗』について。「その生活たるや、なんと内容のない貧しさよ(おカネのことではない)。これが面白いというのはよほどの閑人である」と容赦がない(『文豪たちの大喧嘩』所収)。そこまで言い切って大丈夫ですか、と心配になるほどの切れ味である。
▼当方は論壇の事情に明るくないため、これ以上の深入りは控えておく。ともあれ返り血も辞さずと論陣を張る覚悟には、敬服するほかはない。匿名を隠れ蓑(みの)に、悪意に満ちた投稿で他人の評判をおとしめるネット社会を思えば、なおのことである。
▼全国の医師らが損害賠償を求め、IT大手のグーグルを提訴した。ネット上の地図サービスに不当な口コミを放置され、営業権を侵害されたとしている。原告の中には受診歴のない人に中傷されるなどし、新規患者が減った医療機関もあると聞く。
守秘義務のある医療機関が、公の場で悪評に反論するのは難しい。フェイスブックなどを運営するメタも、著名人になりすました詐欺広告を放置しているとの批判を受けている。制度の欠陥にせよ運営側の手抜かりにせよ、噓の上に成り立つサービスでは誰も安心して使えまい。
▼念のため、当方が先日お世話になった医療機関を地図サービスで調べると、その評価は割れていた。指先一つで人や組織の死命を制しかねない、怖い時代である。匿名という物陰から放たれたのは正当な批評の矢か、害意のある毒矢か。看破する目も養いたい。