万博まで1年/伝わってこない開催意義(2024年4月18日『神戸新聞』-「社説」)

 大阪湾の埋め立て地・夢洲(ゆめしま)が会場となる2025年4月13日の大阪・関西万博開幕まで、1年を切った。パビリオン建設は徐々に進み、前売り入場券も発売されているが、全国はもとより大阪に接する兵庫でも、期待感は高まっていない。

 膨れ上がる事業費や建設の遅れ、そして能登半島地震の復旧復興に影響する可能性など、開催を巡る懸念が山積している点が、国民が抱く万博への印象に影を落としている。

 問題は、説明を尽くして懸念を解消しようとする姿勢が、主催する日本国際博覧会協会や政府、誘致した大阪府大阪市に乏しい点だ。

 参加企業・団体などに対する共同通信のアンケートでは、開幕への機運醸成に危機感を抱く回答が8割を占めた。開催ありきでは国民の関心を引きつけられない。博覧会協会や政府は省みる必要がある。


 主催者側の姿勢を象徴するのは、3月に表面化した「2億円トイレ」の対応だ。会場内で若手建築家が手がける8カ所の公衆トイレのうち2カ所が2億円近くで落札された。断水が続きトイレの確保も困難な能登との対比などで批判が高まった。

 万博担当相らは「一般的な公衆トイレと比べ高額ではない」との説明に終始したが、他の実例などを示さねば、説得力を持たない。

 設計した建築家は、移設や転用が可能で災害復興にも資する新たな発想を目指したという。賛否は別にしても万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を具現化しようとした点は理解できる。本来は主催者側がこうした理念を丁寧に説明するのが筋だろう。

 同様に批判を集めた350億円の木製「リング」も、万博の基本理念である持続可能な開発目標(SDGs)などとの関連は明確に語られず、閉会後の再利用も不明確だ。

 博覧会協会は「機運醸成行動計画」をまとめ、各地でのイベントや交流サイト(SNS)発信を通じ博覧会の内容をアピールするというが、今なぜ万博なのかという根本的な疑問をいまだに多くの国民が抱いている点から、目を背けてはならない。

 大阪府と市の昨年末の調査では、万博への来場意向を示す回答は地元でも37%にとどまった。よもや主催者側は、「始まってしまえば国民は必ず来る」と楽観的に考えているわけではあるまい。

 前回の万博開催の1970年と異なり、海外文化や最新技術に触れる機会は、万博のほかにもいくらでもある。それでも巨額の税金を投じて開催する意義はどこにあり、次代に何を伝えるのか。国民の理解を得るため、説明と情報公開に改めて力を注ぐべきだ。