世界経済の軟着陸は道半ばだ(2024年4月18日『日本経済新聞』-「社説」)

 

 

IMFは最新の世界経済見通しで経済の軟着陸に自信を示したが……(ワシントンのIMF本部)=ロイター

 国際通貨基金IMF)は16日公表した最新の世界経済見通しで、経済の軟着陸に自信を示した。多くの国で景気後退を避けながら高インフレ克服への道筋をつけつつあるのは確かだが、軟着陸の実現はまだ道半ばだ。

 IMFは今回、2024年の世界の成長率を3.2%と予想し、1月の前回見通しから0.1ポイント引き上げた。上方修正を支えたのは米国の好調だ。前回予想を0.6ポイント上回る2.7%成長を見込む。ユーロ圏は0.1ポイント下方修正し、日本や中国は横ばいだった。

 IMFは各国間の成長格差の拡大を懸念しつつも「大半の指標が軟着陸を示唆する」と指摘した。

 先行きにはリスクも多い。まず足元で米国を中心にインフレ率が上向いており、物価高に再燃の兆しが出ている。

 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は16日、インフレ収束に確信を得るまでには「予想以上に時間がかかりそうだ」と述べた。3月に確認した年内3回の利下げシナリオが揺らいでいる。

 米国をはじめ各国は政策運営に細心の注意を払ってほしい。

 地政学リスクも心配だ。IMFの試算によれば、中東情勢の緊迫で原油価格や輸送コストが高騰した場合、世界全体で24年のインフレ率が0.7ポイント高まり、成長率は24年に0.3%、25〜26年にはそれぞれ0.4%下振れする。

 国際社会は危機の封じ込めに向けた結束も問われている。

 長い目でみた成長停滞にも注意したい。5年後の世界の成長率見通しは3.1%と、世界金融危機が深刻になる前の4.9%(08年4月時点)だけでなく、新型コロナウイルス禍直前の3.6%(20年1月時点)も下回る。

 IMFは主因に生産性の伸び悩みを挙げ、労働力が成長分野に移りやすくする改革の重要性を訴えた。各国は人材育成や国際ルールの策定を通じて人工知能(AI)を成長の底上げにつなげるほか、保護主義の台頭に歯止めをかける国際協調にも力を尽くすべきだ。