将来のあるべき姿について真摯に説明するのが先だろう(2024年4月17日『山形新聞』-「談話室」)

▼▽身長わずか3センチほどの一寸法師がおわんの舟に乗り込んだ。箸を櫂(かい)にして大阪から1カ月かけて淀川を遡(さかのぼ)り、都を目指す。おなじみのおとぎ話を科学の目で見てみると…。小学生向け入門書の記述につい引き込まれた。

▼▽「理科と算数で検証したら、わかってしまった昔話の真実」(柳田理科雄監修)という本である。一寸法師が舟をこいだ距離は合計約50キロ、1秒当たりでは4.7センチ進んだと導き出した。流れに逆らいながら、2本の腕で毎秒自分の身長の1.5倍余りを稼いだことになる。

▼▽米連邦議会で、岸田文雄首相が熱弁を振るった。ジョークをちりばめながら日本を米国のグローバル・パートナーと位置付け、上下両院議員から繰り返し拍手を浴びた。激変する世界情勢を踏まえると意義ある演説だったのは確かだ。とはいえ、気になるフレーズもあった。

▼▽「日本は強い同盟国へと自らを変革した」「侵略を抑止するため自衛隊と米軍は足並みをそろえている」。目指すはかの一寸法師も驚くような獅子奮迅の働きか。身の丈以上に背伸びしているような。まず自国民に、将来のあるべき姿について真摯(しんし)に説明するのが先だろう。