中国の海洋進出 「法の支配」に引き込め(2024年4月17日『東京新聞』-「社説」)

 南シナ海などで力による海洋進出をやめない中国を抑止する国際的な共同歩調の動きが本格化してきた。11日には米国で日米比3カ国首脳が初めて会談し、対抗策に合意した。中国を法的拘束力のある南シナ海行動規範(COC)交渉の席に着かせ、南シナ海に「法の支配」をもたらすには、多国間連携の強化が大きな力となる。
 南シナ海のほぼ全域を自国の海だと主張して東南アジア諸国と対立してきた中国は、武力を背景に浅瀬を埋め立て人工島を次々と造成してきた。フィリピン政府によると、3月下旬には、比の補給船が南シナ海排他的経済水域EEZ)内で実効支配する軍拠点に向かう途中、中国海警局の船2隻に挟まれて放水銃を浴び、乗務員らが負傷する事件も起きた。
 対中抑止を目的とした連携では日米豪比4カ国が今月7日、比のEEZ内で初の「海上協同活動」を実施。海上自衛隊護衛艦や米海軍の沿海域戦闘艦などが参加し通信訓練を行った。比軍参謀総長が「武力の誇示ではなく、どの国に対するものでもない」と述べたように、中国を過度に刺激しない姿勢も必要だろう。
 日米比首脳は共同声明で、中国に「深刻な懸念」を表明し、南シナ海での合同パトロールなど安全保障面での連携を確認。中国への対抗を念頭に、重要鉱物や半導体の供給網構築にも合意した。
 南シナ海での偶発的衝突を防ぐ行動規範は1990年代から東南アジア諸国連合ASEAN)が提唱しているが、中国が煮え切らない態度を取り続けている。そうした対応を許してきた背景には、ASEAN諸国間の対中姿勢の温度差があった。
 だが、比政権が昨年、対中政策を転換したことで風向きが変わった。マルコス大統領は当初、前政権の親中姿勢を継承したが、昨年2月、自国の巡視船が中国海警局の船からレーザー照射を受けた事件などを契機に対中けん制の立場に。それが、ここに来て多国間連携を進める要因になっている。
 昨年訪比した岸田文雄首相とマルコス氏は、中国を念頭に、米国も含めた安全保障協力の強化を確認。今回の日米豪比4カ国による「海上協同活動」も、その成果と言えよう。インド洋への中国の進出を警戒するインドも国際連携を強めている。中国を「法の支配」に引き込む好機ではないか。