南シナ海における軍事的な緊張を高めない取り組みが必要だ。
訪米中の岸田文雄首相が米国のバイデン大統領、フィリピンのマルコス大統領と会談した。日米と米比は同盟関係にあるが、3カ国の首脳会談は初めてだ。
海洋進出を強める中国とフィリピンの間で摩擦が強まっていることを受け、対中連携を確認することが狙いだ。
会談後に発表された共同声明は「中国の危険かつ攻撃的な行動」への懸念を表明し、安全保障と経済の両面で協力を強化する方針を打ち出した。日米は、巡視船などの装備提供や合同訓練を通じてフィリピン沿岸警備隊の能力向上を支援する。
南シナ海は、世界の貨物の約3分の1が行き交う海上交通の要衝である。
中国は自国の権益がほぼ全域に及ぶと一方的に主張して岩礁を埋め立て、軍事拠点にもなる滑走路を整備してきた。
昨年には、中国海警局の船によるフィリピン船への放水銃発射などが相次いだ。一触即発の事態に周辺国は警戒を強めている。
こうした状況を踏まえ、2年前に就任したマルコス氏は米国との同盟強化にかじを切った。
米軍が使える国内の基地を増やし、オーストラリアとの安保協力も進めた。今回の首脳会談を前に、自衛隊と米豪比各国の軍による初の共同訓練を自国の排他的経済水域(EEZ)内で実施した。
マルコス氏は、同盟国や同志国のネットワーク強化による対中抑止を狙う。ベトナムやマレーシアとの協力体制構築も進めている。
日米豪印の「クアッド」や米英豪による「AUKUS(オーカス)」などの協力枠組みを使って、対中包囲網を固める米国の動きにも符合するものだ。
中国は反発を強め、日米比3カ国の首脳会談に「深刻な懸念と強い不満」を表明した。
抑止力を強化することは必要だが、偶発的な衝突につながるリスクは封じ込めなければならない。
関係国が中国との対話を継続することが欠かせない。米中両国も参加する東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合などを活用し、危機回避へ向けた方策を探るべきだ。