上手な政治利用?(2024年4月14日『高知新聞』-「小社会」)

 何かとお騒がせなトランプ前米大統領は、楽曲の政治利用でも何度も物議を醸している。ローリング・ストーンズエアロスミスニール・ヤング…。そうそうたるアーティストの作品を前回大統領選で無断で使い、本人たちから抗議された。

 もっとも、政治と音楽の距離が近い米国ではこの手の話は珍しくなく、これほど直接的でなければ、政治がタレント人気にあやかる例は日本にもある。そういえば、安倍元首相も芸能人らと交流の発信に積極的だった。

 先の日米首脳会談。公式夕食会のゲストに、若者に絶大な人気の音楽ユニット「YOASOBI」の2人を招いた。人気アニメ「推しの子」の主題歌「アイドル」は確かに米でも支持されたが、圧倒的な知名度があるわけではない。そこにはやはり政治的意図が垣間見えた。

 狙いは、話題作りか、岸田首相の支持回復か。米側が気を利かせたのか、あるいは日本側が提案したのか。

 いずれにせよ、米軍と自衛隊の運用一体化など「前例のない高み」に達した日米同盟の功罪が問われた今回の会談。芸能ネタで焦点をぼやけさせるべきではなかった。

 そもそも、政治利用を見透かされた時点で策は不発。反発を招いて逆効果になったかもしれない。「推しの子」は芸能界の虚実を描く。登場人物が「偶像(アイドル)」であることを自覚し、したたかに立ち回る物語だ。首相はこちらのストーリーこそ「政治利用」してみては。