自由で開かれた国際秩序が揺らいでいる。その立て直しに日米がどのような役割を果たせるか。同盟のあり方が問われている。
岸田文雄首相とバイデン米大統領がワシントンで会談した。首相の国賓待遇での訪米は2015年の安倍晋三首相(当時)以来、9年ぶりとなった。
眼前に広がるのは殺伐とした世界だ。国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアがウクライナに侵攻し、中国は威圧的行動で東・南シナ海の緊張を高める。パレスチナ自治区ガザ地区では人道危機が深刻さを増している。
こうした国際情勢を踏まえ、打ち出されたのは、日米が世界の課題に取り組む「グローバル・パートナーシップ」という考え方だ。インド太平洋地域を超え、地球規模で協力する。
際立った対中強硬姿勢
防衛協力の拡大はその一環だ。自衛隊と米軍の指揮・統制を向上させるという。一元的に部隊運用を担う自衛隊の「統合作戦司令部」新設に合わせ、在日米軍も司令部機能を強化する。有事における連携を強める狙いだ。
際立ったのは中国への対抗姿勢だ。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」が先端技術分野での日本との協力を検討する。日本を引き込もうとする米側の思惑もうかがえる。
経済分野でも半導体のサプライチェーン(供給網)強化や、人工知能(AI)などの技術開発で連携を表明した。中国に重要物資を依存するリスクを軽減するためだ。
東アジアの安全保障環境は厳しさを増しており、日米同盟を基軸とした抑止力の強化は必要だろう。ただ、懸念されるのは、日本が主体性を欠いたまま米国の世界戦略に巻き込まれることだ。
日本はこれまでも、防衛力強化を加速してきた。集団的自衛権の行使が可能となる安全保障関連法を制定し、相手国の基地をたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も決めた。周辺国との対話が不十分なまま、抑止力だけを強めれば緊張を高めかねない。
求められるのは、日本独自の外交戦略だ。
中国との関係で日米では事情が異なる。米国は中国を安全保障と経済の両面で最大の競争相手と位置付ける。日本は経済的なつながりが強く、対中関係を安定化させることが求められる。
首相は記者会見で「建設的かつ安定的な日中関係の構築を双方の努力で進めていく」と語ったが、中国と合意した「戦略的互恵関係」の具体化はこれからだ。東京電力福島第1原発の処理水放出を巡る対立、沖縄県・尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵入など横たわる課題は多い。
米側は会談に先立ち、バイデン氏が習近平国家主席と電話協議した。訪中したイエレン財務長官も新たな経済対話の枠組みで合意するなど、意思疎通を継続している。日本側には、そうしたしたたかな戦略が見えない。
互恵関係の強化が必要
国際社会における米国の影響力は陰りを見せており、日本が多角的な外交を展開する重要性は増している。インドを含めたグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国や、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと関係を深めることは欠かせない。東アジア情勢の安定に向けて日中韓の枠組みなどを生かすことも求められる。
11月の米大統領選でトランプ前大統領が再選された場合、米国が再び「自国第一主義」に陥るリスクはくすぶる。
会談では、それぞれの脱炭素戦略を連携させ、投資を共同で進めることを確認した。国内企業への補助金に関する共通のルールづくりも進める。内向きになりがちな米国を引き寄せる狙いがある。
首相は米議会での演説で、「ほぼ独力で」国際秩序の維持に貢献してきた米国をたたえ、「最も親しい『トモダチ』」として、日本も役割を分担する決意を示す。
3月に亡くなった五百旗頭真・元防衛大学校長は「20世紀の日本は中国、米国の双方と戦争をして滅んだ」と指摘し、「日米同盟」と「日中協商」を両輪とする外交を提唱した。日米同盟を堅持しつつ、中国とも相互に利益を得られる関係を築くことを説いたものだ。
大国が身勝手な振る舞いを繰り返す中で、法の支配に基づく国際秩序をどう取り戻すのか。今求められているのは、日本外交の骨太のビジョンだ。
日米首脳会談 世界に広がった多面的な「協働」(2024年4月12日『読売新聞』-「社説」)
◆結束して新たな秩序を作りたい◆
冷戦後の世界が今ほど厳しい試練に直面したことはない。日米の首脳が結束し、安全保障やエネルギー、宇宙など幅広い分野で「協働」していくことで合意した意義は大きい。
日米同盟をより強固にし、新たな国際秩序の構築に生かしていく時代に入った。
岸田首相が米国を国賓待遇で公式訪問し、ワシントンでバイデン米大統領と会談した。
◆部隊運用を一体的に
両首脳は会談で「日米同盟は前例のない高みに到達した」という認識で一致した。会談後には、日米両国がインド太平洋地域にとどまらず、世界の課題に対処する「グローバルなパートナー」と位置づける共同声明を発表した。
今回の会談の最大の特徴は、自衛隊と米軍をより一体的に運用できるように「指揮統制」のあり方を見直す方針を決めたことだ。
在日米軍は現在、米ハワイに司令部を置くインド太平洋軍の指揮に基づいて活動している。
一方、日本は今年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を創設する予定だ。これに合わせて、米軍は自衛隊との共同作戦を円滑に進めるため、インド太平洋軍司令部の権限の一部を在日米軍司令部に移行するという。
台湾有事は現実味を帯びている。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、挑発を続けている。緊急事態に日米が即応できる体制を整えなければならない。
会談ではまた、日米でミサイルなど装備品の共同開発・生産を拡充していくことでも合意した。ウクライナへの軍事支援を続けてきた米国では、装備品の生産能力が 逼迫ひっぱく しているため、日本が生産体制を補完する意味がある。
岸田政権はこれまで、敵のミサイル発射拠点を攻撃する反撃能力の保有を決め、米国が「矛」、日本が「盾」という従来の役割の見直しを進めてきた。
こうした取り組みが、米軍と自衛隊の一体的な運用を可能とし、抑止力を高めることにつながるのは間違いない。今回の首脳会談での合意は、日米の新たな防衛協力の出発点となるのではないか。
ただ、自衛隊と米軍の一体運用に向けては課題もある。
日本の存立が脅かされる「存立危機事態」では、自衛隊は集団的自衛権を行使し、米軍の戦闘に協力できる。だが、その認定なしに米軍の戦闘を支援すれば、「武力行使の一体化」として憲法との整合性を巡る論議が必要となる。
現実に即して問題点を整理していくことが重要だ。
◆安定的な供給網を確認
首脳会談の成果は防衛分野に限らない。両首脳は、次世代エネルギーとして期待される核融合発電の技術協力を進めることで合意した。実用化すれば、安定したエネルギー源を確保し、国際社会に貢献することができるだろう。
宇宙に関しては、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」で、日本人の宇宙飛行士2人を月面着陸させることを決めた。
経済安保では、半導体やレアメタルなど重要鉱物の安定的な供給を図るため、先進7か国(G7)で協力することを確認した。
中国は、政治的に対立する国に対し、重要鉱物などの貿易を制限して圧力をかける「経済的威圧」を繰り返している。多国間で協力し、中国への依存度を下げていく必要がある。
国際情勢は 混沌こんとん としており、日本の外交力も試されている。
米国は、ロシアによるウクライナ侵略や、中東の紛争への対応を強いられ、アジアの安全保障に向き合う余力は限られている。
中国が東・南シナ海で覇権主義的な動きを強め、北朝鮮も核・ミサイル開発を続けている。日本はアジアの平和を守るため、主導的な役割を果たすべきだ。
◆早期停戦へ外交努力を
日本は長年、グローバル・サウスと呼ばれる新興国・途上国の発展を支援し、各国と良好な関係を築いてきた。中東では、紛争に関与したことがなく、宗教的な対立も抱えていない。
日本の強みを生かし、欧米と、新興国との橋渡し役を担っていきたい。イスラエルとイスラム主義組織ハマスに対して停戦を呼びかけていくことが大切だ。
首相は会談で、日本人拉致問題の解決に向けて北朝鮮との対話や交渉に理解を求め、バイデン氏の支持を取り付けた。
日朝首脳会談を行うとしても、それはあくまで日米韓の連携を保つことが前提だ。その原則を首相は忘れてはならない。
世界の安定へ重責増す日米同盟(2024年4月12日『日本経済新聞』-「社説」)
世界の安定へ重責増す日米同盟
ウクライナ戦争や中東危機できしむ国際秩序をどう立て直していくのか。岸田文雄首相が10日、ワシントンでバイデン米大統領と会談し、日米同盟をあらゆる面で深め、世界の安定に貢献していく方針を打ち出した。
日本周辺の安全保障環境は厳しさを増しており、日米同盟の強化は不可欠だ。一方で日本はかつてない重責を負うことになる。米国への協力内容は曖昧な面もあり、首相はこれを明確にして国民の理解を得るべきである。
指揮統制に実効性を
共同記者会見で、首相は「力や威圧による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる場所であれ断じて許容できない。同盟国、同志国と連携し、毅然として対処していく」と強調。バイデン氏は「同盟発足以来、最も重要な刷新だ」と語った。
混迷を深める世界に米国だけでは対処できない。安定した世界秩序に向け、同盟国との連携強化は重要だ。ただそれに実質が伴うよう、どう具体化するかはこれからだ。中核になるのが、自衛隊と在日米軍の連携強化に向けた指揮統制のあり方の見直しである。
自衛隊は陸海空やサイバー、宇宙といった多様な部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を今年度中に立ち上げる。米軍側のカウンターパートは、沖縄の海兵隊や横須賀の第7艦隊などへの指揮権を持ち、ハワイに本拠を置くインド太平洋軍となる。
日本とハワイは時差や距離があり、有事の際に緊密に協力できるか不安がある。このため在日米軍の司令部機能を強化するといった改善案が検討に挙がっている。
米軍が偵察、監視能力を用いて敵国のミサイルを探知し、自衛隊がその情報を受けて迎撃ミサイルで撃ち落とす。こうした協力を可能にするには双方による指揮統制の緊密な連携が不可欠だ。
ただ、自衛隊が米軍の指揮下に入ると、他国の武力行使との一体化は認めないという憲法上の問題が生じかねない。米軍が主導する紛争に自衛隊がいつのまにか組み込まれるといった不安も残る。
日本政府は「自衛隊が米軍の指揮下に入ることはない」などと説明しているが、具体的な姿はまだみえない。実効性のある改善策をすみやかに示してほしい。
中国の急速な軍拡を受け、日米同盟だけではインド太平洋の安定はおぼつかなくなってきた。米国は同盟国、同志国とともに抑止力を高める「統合抑止」を掲げ、多国間の重層的な協力を進める。米国と英国、オーストラリアによる安保枠組み「AUKUS(オーカス)」に日本が技術協力すると決めたのはその一環だ。
日米がフィリピンと初めて3カ国による首脳会談を開く意義も大きい。フィリピンは南シナ海で中国から威圧され、小競り合いが続く。日米がフィリピンを支える構図は、力による一方的な現状変更は許さないとの中国への強いメッセージになる。海洋安保を中心に幅広い協力を期待したい。
もっとも、抑止力の向上だけでは地域の安定は望めない。日米同盟の強化に中国はさっそく反発した。両首脳が中国との対話の継続を確認したのは当然だ。意思疎通のパイプを太くし、誤解や意図せざる衝突を防ぐ危機管理がこれまでにも増して重要になる。
この点で、米中間では閣僚の往来など一定の対話が機能しているのに対し、日中間は対話のチャンネルが乏しいのが気がかりだ。
深まる経済・科学協力
日米は経済や科学技術の分野の協力も重層的にする。グリーントランスフォーメーション(GX)分野では、両国の政策の相乗効果や影響を最大化するための対話枠組みを創設する。脱炭素関連産業の競争力強化に生かしたい。
半導体などのサプライチェーン(供給網)強化に向け、両国の経済、技術戦略を整合させることもうたった。ただ、その一環となる日本製鉄によるUSスチールの買収を、首相が後押しする姿勢が見えなかったのは残念だ。
先端技術は経済安保で重要性が増している。核融合発電や次世代半導体、生成AI(人工知能)、月面探査などで協力を深め、中国を念頭に技術流出を防ぐとともに競争優位に立つ狙いがある。
その半面、中国やロシアの反発を招き、国際協力を前提としていた科学技術分野でも分断を促す懸念もある。この点にも留意して協力を深めてほしい。
11月の米大統領選の行方は見通せない。今回の首脳会談が、選挙結果に左右されない強固な同盟につながるよう期待する。
日米首脳会談 抑止力向上の合意実践を 首相の積極姿勢を評価する(2024年4月12日『産経新聞』-「主張」)
岸田文雄首相が、米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談した。
会談の特徴は、同盟の抑止力・対処力を迅速かつ確実に向上させる防衛・安全保障協力に重点を置いたことだ。共同声明は「地域の安全保障上の課題が展開する速度を認識」し、同盟が「重要な変化に対応できるようにする」と明記した。
日米が抑止の努力を怠れば、日本有事につながる台湾有事が生起しかねない厳しい安保情勢への危機感があるからだろう。戦争を起こさないための方策を打ち出した両首脳の合意を支持し、確実な実践を求めたい。
指揮統制の連携必要だ
両首脳の国際情勢認識も妥当だった。共同声明は「世界の安全と繁栄に不可欠の要素」だとして「台湾海峡の平和と安定を維持する重要性」を訴え、両岸問題の平和的解決を促した。東・南シナ海での中国による力または威圧による 一方的な現状変更の試みや、北朝鮮の核・ミサイル開発に強く反対した。拉致問題の即時解決へ米国は協力を約束した。
「ロシアのウクライナに対する残酷な侵略戦争」を非難し、対露制裁とウクライナ支援を確認した。中東ではハマスなどのテロを非難し、イスラエルの自衛の権利を確認しつつ、ガザ地区の人道状況に深い懸念を表明した。
共同声明は日米が「グローバル・パートナー」として防衛や経済安保、先端技術、宇宙などでの連携を強化するとした。
自衛隊と米軍がそれぞれ指揮・統制枠組みを向上させ、防衛装備品の共同開発、生産・整備の役割分担に関する協議体(DICAS)を設立する。
他の同志国との安保協力推進を掲げた点も対中抑止のネットワークを作る上で評価できる。米英豪3カ国の安全保障枠組み(AUKUS)と日本の先端技術開発での協力検討や、日米韓、北大西洋条約機構(NATO)などの連携推進である。
指揮・統制枠組みの向上は日本が今年度末に、陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」「統合作戦司令官」を置くことを踏まえたものだ。
米インド太平洋軍の司令部はハワイという遠隔地にあるため作戦行動の齟齬(そご)が生じる恐れがある。そこで、今は作戦指揮権を有しない在日米軍司令部の機能を強化する方向だ。自衛隊と米軍が作戦立案や部隊運用で日常的に連携し、より効果的に戦える態勢をとれれば画期的だ。抑止力はそれだけ高まる。
ただし、日本は独立国だ。林芳正官房長官が11日の会見で説明したように、自衛隊と米軍は独立した指揮系統で運用されるべきである。
バイデン大統領は「日米同盟は歴史上かつてないほど強固だ」と語った。さらに、日本の反撃能力の保有、防衛費とそれを補完する関連予算を合わせ国内総生産(GDP)2%へ増額する計画、防衛装備移転三原則の指針改正を歓迎した。
日本の存在感は増した
東アジアやインド太平洋地域、世界の平和と安定は米国だけでは守り切れない時代である。中露、北朝鮮という専制国家の至近に位置する先進7カ国(G7)の国は日本だけだ。日本の国際政治上の役割と存在感は世界第2位の経済大国だったころよりも、むしろ今の方が大きい。だからこそ岸田首相は国賓待遇になった。
日米の安保協力には「米国の戦争に巻き込まれる」という懸念の声もあるが、それは大きな間違いだ。中露や北朝鮮の脅威は、米国よりも日本にとっての方が大きい。
日本は尖閣諸島(沖縄県)を含め自国の領域と平和、繁栄を守るため、安保問題で米国をむしろ巻き込み、同盟の抑止力向上で平和を保たなければならない立場にある。
その点からも岸田首相の訪米には意義があった。防衛力の抜本的強化を進める岸田首相がバイデン大統領に「日米がグローバルなパートナーとして真価を発揮すべきときだ」「日本は常に米国とともにある」と述べたのは説得力があった。
バイデン大統領は、日米安保条約第5条の下で、核戦力を含むあらゆる能力で日本防衛に関わると表明した。両首脳は外務・防衛担当閣僚に対し、次回の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で日本の防衛力増強に伴う米国の拡大抑止の在り方を協議するよう求めた。核抑止を含めあらゆる局面の防衛態勢の検討は急務である。
世界と未来に責任、岸田首相の残した果実(2024年4月12日『産経新聞』-「産経抄」)
葉巻、Vサイン、蝶(ちょう)ネクタイは、チャーチル英元首相のシンボルマークとされる。1900年の総選挙、25歳で初当選したときの首元にはすでに蝶ネクタイが結ばれていた。以後数十年、公の場では必須のアイテムだったと聞く。
▼数少ない例外が、先の大戦末期に行われたポツダム会談である。蝶ネクタイを締めたのは米大統領トルーマン、チャーチルは結び下げのネクタイだった。服飾評論家の出石尚三氏が著書『男はなぜネクタイを結ぶのか』でこんな推理を加えている。
▼前もって情報を得ていたチャーチルは、装いの重複を潔しとしなかった―。真相は闇の中だ。今回の日米首脳会談を報じたワイドショーでは、ゆくりなくも首元が話題になった。公式晩餐(ばんさん)会に臨んだ岸田文雄首相とバイデン大統領である。蝶ネクタイの首相、結び下げの大統領。
▼正装は蝶―との思い込みがあっただけに意外の念を催した。実際のところ、注目度ではスピーチでジョークを連発した首相に軍配が上がった感がある。「日米同盟は前例のない高みに到達した」とする共同声明を見ても、日本の重みは増している。
▼首相は「10年後、100年後の世界」を見据え、日米が課題解決の先頭に立つと表明した。世界と未来に責任を負う。そんな誓いと受け止めたい。中露など安全保障上の脅威が去ることはない。ネクタイの形はどうあれ、日米の結び目に緩みのないことを確かめた意義は大きい。
▼「もしトラ」に迫られるバイデン氏と支持率低迷の岸田氏は、成果を追い風にできるだろうか。チャーチル率いる保守党は、ポツダム会談のさなかの総選挙で労働党に大敗した。ネクタイのジンクスとは言わないが、バイデン氏には気になる史実かもしれない。
日米の軍事協力 衆議なき一体化を糾す(2024年4月12日『東京新聞』-「社説」)
岸田文雄首相=写真(左)、共同=とバイデン米大統領=同(右)=が日米軍事協力の強化に合意した。岸田政権が2022年12月に改定した国家安全保障戦略に沿った内容だが、同戦略は国会の議決も国民の審判も受けていない。
米国との軍事一体化を国民的な議論を経ず、既成事実化するような振る舞いを糾(ただ)さねばならない。
両首脳は会談で、自衛隊と在日米軍の相互運用性を高めるため、双方の指揮・統制枠組みを見直すことで一致。防衛装備品の共同開発・生産に関する定期協議の開催にも合意した。
日本は殺傷能力のある武器の輸出を一部解禁し、迎撃用地対空誘導弾パトリオットの対米輸出も決めており、武器を巡る日米協力はさらに拡大されることになる。
首相の国賓待遇での訪米は、日本の安保政策の転換を米側が評価した結果でもあるが、そもそも国会の関与も国政選挙もなく、平和憲法の理念を形骸化させる政策転換は許されるものではない。
いくら米国と合意しても、国民が幅広く賛同しなければ、合意の有効性すら疑われかねない。
覇権主義的な動きを強める中国に対抗するためとはいえ、日米が「グローバルなパートナー」(共同声明)として軍事一体化を際限なく進めれば、米国の戦争に日本が巻き込まれる懸念も高まる。
日本側には、11月の米大統領選でトランプ氏が返り咲くことも想定し、米国の東アジア関与を確実にしておきたい思惑もあろう。
首相が米上下両院合同会議での演説で、米国第一主義を掲げるトランプ氏の支持層を意識し、米国が引き続き世界秩序を主導するよう求める狙いは理解する。
ただ「日本は米国と共にある」との呼びかけは、米国に常に追従し、軍事・財政負担の一層の用意があると受け取られかねない。
イラク戦争の例を挙げるまでもなく、米国が判断を誤れば、国際情勢に深刻な影響を及ぼす。
首相が「日本は米国の最も近い同盟国」と胸を張るなら、米国が独善的な行動に走る場合には誤りを正し、修正を促す役割があることも忘れてはならない。
日米首脳会談 同盟変容の説明責任必須(2024年4月12日『福井新聞』-「論説」)
岸田文雄首相とバイデン米大統領はワシントンであった首脳会談で一段の同盟強化を打ち出すとともに、覇権主義的な姿勢を強める中国に対し緊密に連携する考えで一致した。日米同盟の抑止力を高めるため自衛隊と米軍の相互運用を向上させる方針でも合意した。
双方は日米両司令部の指揮・統制機能を見直す。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに伴い、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)の機能を強化。共同訓練の企画立案や実動部隊の限定的な指揮権を付与する案を検討している。
質量共に圧倒的な米軍の指揮権のもとで自衛隊の独立性が担保されるのだろうか。日本の憲法が禁じる他国軍の武力行使との一体化が加速しかねない。加えて横田基地が部隊指揮権を持つということは、有事の際に標的にされる恐れも強まろう。人口密集地域で国会などの中枢機能が集まる首都圏のリスクへの備えを十分考慮したのだろうか。
共同記者会見に臨んだ岸田首相は日米同盟について「今こそグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だ」と述べ、世界の課題に共に対処すると強調した。ただ、従来の同盟関係は日米安保条約に基づき米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が主体だった。防衛力の一体運用が進めば、日本も矛の一翼を担うだけに、同盟の質的な変容は避けられない。戦後日本が国際社会に示してきた平和国家の歩みに照らし理解を得られるのか。国民や国会への説明責任は必須だし、慎重な検討が欠かせないはずだ。
日米が防衛装備品の共同開発を促進することでも一致した。日本の民間企業が在日米海軍の艦船の大規模改修に従事する仕組みも整えるという。防衛産業の育成に資する考えは理解できるが、日本は殺傷兵器である次期戦闘機の第三国輸出解禁を決めたばかりだ。なし崩しの対応では国際紛争を助長しかねず、重ねて注視していく必要がある。
中国の海洋進出をにらみ日米にフィリピンも加えた3カ国の連携を強化。米英豪の安保枠組み「AUKUS(オーカス)」と日本の防衛技術協力も推進する。唯一の同盟国米国との共同歩調を日本の外交基軸とすることには異論はない。しかし、抑止力は「もろ刃の剣」でもあり、現に、中国政府はオーカスへの協力に関し「軍備競争を激化させる」と即、反発した。
米側は日米会談の直前に中国側と政治レベルの対話を重ね地ならしした。首相は会見で中国との「対話を継続する」とも述べたが、気がついたら日本だけが取り残されていたとの事態は回避しなければならない。
日米の部隊連携 指揮権の独立が危うい(2024年4月12日『信濃毎日新聞』-「社説」)
有事の際に指揮権を確保できるのか。
自衛隊と在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しである。岸田文雄首相とバイデン米大統領がホワイトハウスで会談し、連携強化で合意した。中国や北朝鮮を念頭に、抑止力の強化につなげる狙いである。
日本が陸海空の3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに合わせた。
米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)の体制を強化し、司令官の階級を現在の中将から大将に格上げする方向だ。基地管理などに限定されている権限も拡大し、実動部隊の限定的な指揮権を付与する案が検討されている。
双方の指揮権を整備した上で連携を強め、日本が保有することにした敵基地攻撃能力の効果を高める。日本が他国領域の基地などを破壊するのに必要な高度な探知能力や監視能力は、米軍に頼る必要があるという判断である。
日米部隊の一体化が進み、新たな段階に入る。米国は日本を巻き込む形で抑止力を維持し、自国の負担を減らす狙いだろう。
問題は、日本の指揮権独立が危うくなる可能性があることだ。
林芳正官房長官は11日の会見で「米軍の指揮・統制下に入ることはない」と述べている。日米連携の具体的な枠組みは、5月末にも開く外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で決める方針だ。即応性の向上と指揮権確保の両立は簡単ではないだろう。
米韓連携では有事の際、韓国軍は在韓米軍の指揮下に入る。日米でも日本の主体的な政治判断より米国の戦略が優先され、米主導の作戦に組み込まれて「参戦」する懸念が増す。
連携強化は「対中包囲網」の側面が強い。首脳会談の共同声明では、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みを名指しで批判している。
中国の習近平国家主席は日米会談に合わせたように、ロシアのラブロフ外相と北京で9日に会談した。10日には台湾で対中融和路線を取る国民党の馬英九前総統とも北京で会談して、台湾問題への介入を許さない姿勢を誇示した。
岸田首相はバイデン大統領とは就任以降、11回の会談を重ねた。一方で習主席との会談は2回のみだ。中国との外交関係をなおざりにすれば、分断が深まる。対話を重ねて緊張関係を解きほぐすことこそ、日本の変わらぬ役割だと改めて認識するべきだ。
日米首脳会談 地域安定に主体的外交を(2024年4月12日『新潟日報』-「社説」)
軍事面の連携強化が際立ち、日米同盟が新たな段階に入ったことを印象付ける会談だ。
対中国を意識する姿勢が鮮明だが、北東アジア地域の安定を図るには、米国偏重にとどまらず、主体的な外交で各国との対話を重ねていくことが欠かせない。
岸田文雄首相が米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、共同声明を発表した。
両首脳は、日米同盟の抑止力、対処力の強化が急務とし、自衛隊と在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みを見直すことで合意した。半導体や人工知能(AI)といった新技術で協力を促進することなどでも一致した。
念頭にあるのは、覇権主義的な動きを強める中国の存在だ。
共同声明では、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。
バイデン政権は半導体製造で影響力を増す中国を警戒しており、会談では中国の半導体に対する世界的な依存度が高まることへの危機感なども共有した。
中国外務省は、内政干渉だとして強烈な不満を表明している。分断がさらに深まり、日中関係の一層の悪化が危惧される。
懸念するのは、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への大幅増をはじめ、岸田政権が加速させた日米間の防衛協力が、さらに強まる可能性があることだ。
共同声明が打ち出した自衛隊と在日米軍の連携強化では、日本は2024年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を新設する。
日米の共同対処力を高める効果の一方、司令部が強化され、自衛隊と米軍の連携が密になれば、有事の際に米軍による武力攻撃と一体化しかねない。指揮権を米軍が握る可能性や、日本が標的になる恐れも指摘されている。
首相の姿勢は前のめりに映る。主権に関わる問題であり、国民の理解を得ることが必須だ。
共同声明では、米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の第2の柱である先進能力分野で、日本との協力を検討することも示された。極超音速兵器やAIの共同開発が視野に入る。
米側には軍事的に台頭する中国に対抗する狙いがあるが、日本は慎重に対応しなくてはならない。
共同声明は、中国と意思疎通する重要性も強調した。
日中間では、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴う海産物輸出を巡る問題や、スパイ容疑で拘束されている邦人の釈放をはじめ課題が山積している。
解決には、首相と習近平国家主席との直接対話が不可欠ながら、対面会談は2回にとどまる。
国益を守るために、首相には、米国を重視するだけではない戦略的な外交姿勢を求めたい。
日米同盟の深化/国民の理解は得られるか(2024年4月12日『神戸新聞』-「社説」)
岸田文雄首相は米ワシントンでバイデン大統領と会談し、安全保障や経済、宇宙など幅広い分野での連携強化を確認した。日本の首相の国賓待遇での訪米は9年ぶりとなる。
両首脳が強調したのは、自衛隊と在日米軍の指揮統制見直しの合意だ。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに合わせ、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)を格上げし、共同訓練の企画立案や実動部隊の指揮権を一部付与する案を検討する。ミサイルなど防衛装備品の共同開発を促進し、日本企業が米艦船・航空機の補修に従事できる仕組みも整える。
米側が描くのは「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対抗戦略である。そこに日本が完全に組み込まれ、専守防衛の域を超えて米軍との一体化が進む懸念は拭えない。
岸田政権は地ならしに余念がなかった。22年に安保関連3文書を改定し、防衛費の大幅増や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、防衛装備品の第三国輸出解禁を次々に決めた。平和主義に基づく戦後日本の安全保障政策を転換することで、今回の「日米同盟の歴史的な更新」(米国務省)を可能にしたと言える。
問題は、首相がそれを与党協議と閣議決定という政権内の手続きで推し進めてきた経緯である。国民への丁寧な説明と合意形成の努力を欠いたまま、首脳レベルの「約束」として既成事実化してしまう。国民不在の政治手法と言わざるを得ない。
共同声明は、東・南シナ海での中国の一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。日本側には、中国が威圧的行動を繰り返す沖縄県・尖閣諸島が米国の対日防衛義務の適用対象と明記され、抑止効果が高まるとの期待もある。だが、中国側が不信感を募らせ、強硬姿勢に傾くようでは元も子もない。日本は独自に対中対話を活性化する必要がある。
11月の米大統領選で「米国第一主義」を掲げるトランプ氏が返り咲けば合意も覆りかねない。党派を超えて日米関係の重要性を訴える地道な外交努力が不可欠だ。
北朝鮮を巡っては日本人拉致問題解決への協力を再確認した。ロシアの侵攻が続くウクライナの支援も申し合わせた。人道危機に全力で向き合ってこそ、国民は両国関係の深化を実感できるだろう。
岸田内閣の支持率は自民党の裏金問題などで20%台に落ち込んだ。首相は外交成果を政権浮揚につなげたい考えだが、合意を国民の納得なしに実行に移せば不信は高まるばかりである。安保政策の大転換について、改めて国民の理解を得る努力を尽くさねばならない。
【日米首脳会談】国民への説明欠く一体化(2024年4月12日『高知新聞』-「社説」)
日米同盟は前例のない高みに到達し、防衛・安全保障協力はかつてないほど強固になった。両国の関係を共同声明はこう位置付けるが、国民の理解や支持はどれほど高まっているだろう。説明を欠いた取り組みでは分断を招いてしまう。
岸田文雄首相はバイデン米大統領と会談した。首相はグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だと述べ、世界の課題に共に対処すると強調した。
インド太平洋地域で中国が影響力を増している。両首脳は日米同盟の抑止力、対処力強化が急務だと確認し、自衛隊と在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しで合意した。政府は陸海空3自衛隊を一元的に指揮する常設の「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させる考えだ。
自衛隊と米軍は台湾有事を想定した共同作戦計画を策定するなど、一体的な運用が加速している。指揮・統制枠組みの見直しで部隊の運用性向上を見込むが、自衛隊の指揮権を米軍に委ね、米軍の武力行使と一体化する恐れが拭えない。政府はおのおの独立した指揮系統に従って行動すると説明しているが、議論は尽くされてはいない。
岸田政権は国家安全保障戦略などを改定し、安保政策を転換した。防衛費増額の方針を掲げ、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出した。専守防衛の理念は形骸化し、日本が「盾」、米国が「矛」を担った日米同盟の変容が進む。
会談では、防衛装備品の共同開発に向けた協議体創設を確認した。政府は防衛装備品の輸出拡大を狙う。殺傷能力が高い戦闘機の輸出に踏み切る方針だ。日米の安保協力が防衛産業分野でも強化される。
経済分野では、投資拡大を歓迎し、人工知能(AI)や半導体、量子技術の分野での協力を促進する。また、中国の経済的威圧をにらみ、半導体など戦略物資のサプライチェーン(供給網)構築をはじめ、経済安保分野の連携で一致した。
今訪米では、フィリピンのマルコス大統領を交えた初の日米比首脳会談が実施される。米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組みAUKUS(オーカス)は、日本との協力検討を明らかにした。対中包囲網を強める動きが広がる。
対立を先鋭化させないために対話の重要性が増す。共同声明では中国と意思疎通する重要性を取り上げ、共通する課題での協力にも言及している。こうした姿勢を建設的な関係へとつなげることが重要だ。粘り強い取り組みが求められる。
支持率が低迷する首相にとって、日米の緊密さを見せることで政権浮揚を図りたい思惑が透ける。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件にまつわる処分を訪米前に行ったのも、区切りを演出したかったためとみられる。
狙い通りにいくかは不明だが、見られているのは首相が説明責任とどう向き合うかだ。その姿勢を欠くようでは信頼は高まらない。
日米首脳会談 対話の手だて探る努力も(2024年4月12日『熊本日日新聞』-「社説」)
岸田文雄首相とバイデン米大統領がホワイトハウスで会談した。インド太平洋地域で影響力を増す中国を念頭に、日米同盟の対処力を強化することで一致。先端技術分野での協力推進や、半導体などのサプライチェーン(供給網)構築を急ぐことも合意し、あらゆる分野で足並みをそろえて中国の脅威に対応する方針を示した。
日本の首相が国賓待遇で公式訪米したのは、2015年の安倍晋三氏以来、9年ぶりのことだ。バイデン氏には、同盟国と協調して中国に対抗する姿勢をアピールすることで11月の大統領選を優位に進めたいとの思惑があろう。
岸田首相も、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政権の基盤が大きく揺らいでいる。米国との良好な関係を打ち出すことで支持離れを食い止め、苦境の打開を図りたいとの狙いが透ける。
共同記者会見で岸田首相は、日米同盟について「今こそグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だ」と述べた。ただ、会談で合意した内容は多岐にわたり、どこまで具体化できるか現時点では見通せないものも多い。
さらに、有事に向けた危機意識が強調され、対話によって世界を平和へ導く姿勢は希薄に映った。国際社会はもちろん、それぞれの自国においても広範な理解と支持が得られるかは未知数だ。
日本としては、米国に偏重するだけでなく、中国とも対話を重ねるべきだろう。どのように働きかければ日中のハイレベルな対話が進むのか、効果的な手だてを探る努力も積み重ねてほしい。
首脳会談では、自衛隊と米軍の相互運用を容易にするため指揮・統制の枠組みを見直すことが確認された。日本が本年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を発足させることを受け、米国は在日米軍司令部の機能を高める。
防衛装備品を共同で開発・生産するための協議体を設立することでも合意。日本の民間企業が在日米海軍の艦船の大規模補修を行えるようにする枠組みも整える。
両国は、軍事力を増強して威圧的行動に出ている中国を抑止し台湾有事に備えたい、との思惑で一致している。ただ、在日米軍司令部の機能強化に対しては米側に慎重論があるようだ。防衛面の関係見直しが米主導で進めば、自衛隊の指揮権を米軍に委ねることになるとの懸念もある。日米関係のたがが外れることのないよう、丁寧な議論を重ねる必要がある。
対北朝鮮では、日本人拉致問題の解決に意欲を示す岸田首相の姿勢をバイデン氏が支持。科学技術関連では、次世代太陽電池や人工知能(AI)、量子といった先端分野での関係強化を確認した。
貿易の制限で圧力をかける経済的威圧を認めず、自由な経済秩序を守る意思も共有した。こちらも中国の動きを念頭に置いたものだが、同盟国を巻き込んでの「対中包囲網」強化は分断を一層深める恐れをはらんでいることも覚悟しておかねばなるまい。
鐘か、ラッパか(2024年4月12日『熊本日日新聞』-「新生面」)
坂本龍馬が、勝海舟の添え書きを持って西郷隆盛に面会した。勝への報告でいわく。「なるほど西郷というやつは、わからぬやつだ。少しくたたけば少しく響き、大きくたたけば大きく響く」。勝の語録『氷川清話』にある
▼これと同様の論を中国の古典『墨子』で見つけたと、歴史作家の半藤一利さんが自著『人間であることをやめるな』(講談社文庫)に記している。「君子はいうなれば鐘のようなもの。たたけば鳴り、たたかなければ鳴らない」と
▼さて相まみえた両国トップは、それぞれの鐘をたたき大きく鳴らすことはできたのか。ホワイトハウスで開かれた日米首脳会談である
▼発表された共同声明では、自衛隊と在日米軍の連携強化に向け、指揮・統制枠組みの見直しで一致した。9年ぶりの国賓待遇に応えて、米国がかねて要望していた日米の防衛協力を、岸田文雄首相が大きく前進させてみせたというところだろう
▼加えて防衛装備品の共同開発・生産を促進する定期協議や、戦闘機操縦士の育成などに向けた作業部会の設置。米軍艦船や航空機の大規模補修に日本企業が従事できる仕組みの整備など。米軍との一体化はさらに強化されそうだ
▼半藤さんは前述の著書で、非戦を説いた墨子の次のような言葉も紹介している。「不義の戦争は、攻める国にも攻められる国にも少しも利益をもたらさない。この場合は君子はたたかれなくとも大きく鳴る必要がある」。墨子が聞けば共同声明は平和の鐘か、それとも勇ましきラッパであるか。
日米首脳共同声明(2024年4月12日『しんぶん赤旗』-「主張」)
危険な安保大変質に未来なし
岸田文雄首相とバイデン米大統領は10日、米ワシントンのホワイトハウスで会談し、「日米首脳共同声明」を発表しました。
共同声明は、敵基地攻撃能力の保有をはじめ、岸田政権が憲法の平和主義をじゅうりんし強行してきた数々の安全保障政策の大転換を持ち上げ、今後も、米軍と自衛隊のシームレスな(切れ目のない)統合など、憲法破壊の一層危険な政策を推し進めていくことを表明しました。
声明のタイトルは「未来のためのグローバル・パートナー」ですが、それが指し示す方向は、アジア太平洋地域の分断と軍事的緊張を激化させ、平和と安定を脅かす未来なき道です。
■戦争国家化を加速
今回の岸田首相の訪米は、米国の招待による国賓待遇での公式訪問です。日本の首相としては、2015年4月の安倍晋三氏以来9年ぶりです。両氏の公式訪米はいずれも、戦後日本の安保政策を大転換したさなかに行われ、「戦争国家づくり」をさらに加速する跳躍台となっています。
安倍氏の公式訪米は、歴代政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を認める閣議決定(14年7月)の翌年でした。安倍氏は首脳会談や米議会での演説で、閣議決定に基づき、海外での米軍の戦争に自衛隊が参戦することを可能にする安保法制=戦争法の成立を誓約しました。
岸田氏の公式訪米も、歴代政府が違憲としてきた敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ安保3文書の閣議決定(22年12月)を受けたものです。
米国のエマニュエル駐日大使は岸田氏の国賓待遇での米国招待について、安保3文書に明記された軍事費の国内総生産(GDP)比2%への増額や敵基地攻撃能力の保有、そのための米国製巡航ミサイル・トマホークの購入を挙げ、「岸田政権は2年間で、70年来の(日本の安全保障)政策の隅々に手を入れ、根底から覆した」と述べています(「産経」5日付)。
実際、共同声明も、安保3文書に基づく「防衛力の抜本的強化」の取り組みが「日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓(ひら)く」などと強調しています。
■阻止の国民運動を
重大なのは、共同声明が日米同盟をさらに危険な段階に引き上げ、大変質させようとしていることです。
岸田政権は、安保3文書に基づき、陸・海・空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を24年度中に創設します。これを踏まえ、共同声明は、「日米同盟をさらに前進させる」とし、米軍と自衛隊の作戦や能力をシームレスに統合し、平時でも有事(戦時)でも共同して計画を練り、一体となって動けるように、「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と表明しました。
狙いは、米軍が進める対中国軍事戦略に、長距離ミサイルなど敵基地攻撃能力を持ち、南西地域での態勢強化を図る自衛隊を組み込むことです。平時から自衛隊が米軍の指揮下に置かれ、有事になれば有無を言わさず動員される危険があります。急加速する「戦争国家づくり」阻止の国民的な運動が求められます。