日米の軍事協力 衆議なき一体化を糾す(2024年4月12日『東京新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相=写真(左)、共同=とバイデン米大統領=同(右)=が日米軍事協力の強化に合意した。岸田政権が2022年12月に改定した国家安全保障戦略に沿った内容だが、同戦略は国会の議決も国民の審判も受けていない。
 米国との軍事一体化を国民的な議論を経ず、既成事実化するような振る舞いを糾(ただ)さねばならない。
 両首脳は会談で、自衛隊在日米軍の相互運用性を高めるため、双方の指揮・統制枠組みを見直すことで一致。防衛装備品の共同開発・生産に関する定期協議の開催にも合意した。
 日本は殺傷能力のある武器の輸出を一部解禁し、迎撃用地対空誘導弾パトリオットの対米輸出も決めており、武器を巡る日米協力はさらに拡大されることになる。
 首相の国賓待遇での訪米は、日本の安保政策の転換を米側が評価した結果でもあるが、そもそも国会の関与も国政選挙もなく、平和憲法の理念を形骸化させる政策転換は許されるものではない。
 いくら米国と合意しても、国民が幅広く賛同しなければ、合意の有効性すら疑われかねない。
 覇権主義的な動きを強める中国に対抗するためとはいえ、日米が「グローバルなパートナー」(共同声明)として軍事一体化を際限なく進めれば、米国の戦争に日本が巻き込まれる懸念も高まる。
 日本側には、11月の米大統領選でトランプ氏が返り咲くことも想定し、米国の東アジア関与を確実にしておきたい思惑もあろう。
 首相が米上下両院合同会議での演説で、米国第一主義を掲げるトランプ氏の支持層を意識し、米国が引き続き世界秩序を主導するよう求める狙いは理解する。
 ただ「日本は米国と共にある」との呼びかけは、米国に常に追従し、軍事・財政負担の一層の用意があると受け取られかねない。
 イラク戦争の例を挙げるまでもなく、米国が判断を誤れば、国際情勢に深刻な影響を及ぼす。
 首相が「日本は米国の最も近い同盟国」と胸を張るなら、米国が独善的な行動に走る場合には誤りを正し、修正を促す役割があることも忘れてはならない。

 

日米首脳会談 同盟変容の説明責任必須(2024年4月12日『福井新聞』-「論説」)


 岸田文雄首相とバイデン米大統領はワシントンであった首脳会談で一段の同盟強化を打ち出すとともに、覇権主義的な姿勢を強める中国に対し緊密に連携する考えで一致した。日米同盟の抑止力を高めるため自衛隊と米軍の相互運用を向上させる方針でも合意した。

 双方は日米両司令部の指揮・統制機能を見直す。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに伴い、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)の機能を強化。共同訓練の企画立案や実動部隊の限定的な指揮権を付与する案を検討している。

 質量共に圧倒的な米軍の指揮権のもとで自衛隊の独立性が担保されるのだろうか。日本の憲法が禁じる他国軍の武力行使との一体化が加速しかねない。加えて横田基地が部隊指揮権を持つということは、有事の際に標的にされる恐れも強まろう。人口密集地域で国会などの中枢機能が集まる首都圏のリスクへの備えを十分考慮したのだろうか。

 共同記者会見に臨んだ岸田首相は日米同盟について「今こそグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だ」と述べ、世界の課題に共に対処すると強調した。ただ、従来の同盟関係は日米安保条約に基づき米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が主体だった。防衛力の一体運用が進めば、日本も矛の一翼を担うだけに、同盟の質的な変容は避けられない。戦後日本が国際社会に示してきた平和国家の歩みに照らし理解を得られるのか。国民や国会への説明責任は必須だし、慎重な検討が欠かせないはずだ。

 日米が防衛装備品の共同開発を促進することでも一致した。日本の民間企業が在日米海軍の艦船の大規模改修に従事する仕組みも整えるという。防衛産業の育成に資する考えは理解できるが、日本は殺傷兵器である次期戦闘機の第三国輸出解禁を決めたばかりだ。なし崩しの対応では国際紛争を助長しかねず、重ねて注視していく必要がある。

 中国の海洋進出をにらみ日米にフィリピンも加えた3カ国の連携を強化。米英豪の安保枠組み「AUKUS(オーカス)」と日本の防衛技術協力も推進する。唯一の同盟国米国との共同歩調を日本の外交基軸とすることには異論はない。しかし、抑止力は「もろ刃の剣」でもあり、現に、中国政府はオーカスへの協力に関し「軍備競争を激化させる」と即、反発した。

 米側は日米会談の直前に中国側と政治レベルの対話を重ね地ならしした。首相は会見で中国との「対話を継続する」とも述べたが、気がついたら日本だけが取り残されていたとの事態は回避しなければならない。

 

日米の部隊連携 指揮権の独立が危うい(2024年4月12日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 有事の際に指揮権を確保できるのか。

 自衛隊在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しである。岸田文雄首相とバイデン米大統領ホワイトハウスで会談し、連携強化で合意した。中国や北朝鮮を念頭に、抑止力の強化につなげる狙いである。

 日本が陸海空の3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに合わせた。

 米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)の体制を強化し、司令官の階級を現在の中将から大将に格上げする方向だ。基地管理などに限定されている権限も拡大し、実動部隊の限定的な指揮権を付与する案が検討されている。

 双方の指揮権を整備した上で連携を強め、日本が保有することにした敵基地攻撃能力の効果を高める。日本が他国領域の基地などを破壊するのに必要な高度な探知能力や監視能力は、米軍に頼る必要があるという判断である。

 日米部隊の一体化が進み、新たな段階に入る。米国は日本を巻き込む形で抑止力を維持し、自国の負担を減らす狙いだろう。

 問題は、日本の指揮権独立が危うくなる可能性があることだ。

 林芳正官房長官は11日の会見で「米軍の指揮・統制下に入ることはない」と述べている。日米連携の具体的な枠組みは、5月末にも開く外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で決める方針だ。即応性の向上と指揮権確保の両立は簡単ではないだろう。

 米韓連携では有事の際、韓国軍は在韓米軍の指揮下に入る。日米でも日本の主体的な政治判断より米国の戦略が優先され、米主導の作戦に組み込まれて「参戦」する懸念が増す。

 連携強化は「対中包囲網」の側面が強い。首脳会談の共同声明では、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みを名指しで批判している。

 中国の習近平国家主席は日米会談に合わせたように、ロシアのラブロフ外相と北京で9日に会談した。10日には台湾で対中融和路線を取る国民党の馬英九前総統とも北京で会談して、台湾問題への介入を許さない姿勢を誇示した。

 岸田首相はバイデン大統領とは就任以降、11回の会談を重ねた。一方で習主席との会談は2回のみだ。中国との外交関係をなおざりにすれば、分断が深まる。対話を重ねて緊張関係を解きほぐすことこそ、日本の変わらぬ役割だと改めて認識するべきだ。

 

日米首脳会談 地域安定に主体的外交を(2024年4月12日『新潟日報』-「社説」)

 軍事面の連携強化が際立ち、日米同盟が新たな段階に入ったことを印象付ける会談だ。

 対中国を意識する姿勢が鮮明だが、北東アジア地域の安定を図るには、米国偏重にとどまらず、主体的な外交で各国との対話を重ねていくことが欠かせない。

 岸田文雄首相が米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、共同声明を発表した。

 両首脳は、日米同盟の抑止力、対処力の強化が急務とし、自衛隊在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みを見直すことで合意した。半導体人工知能(AI)といった新技術で協力を促進することなどでも一致した。

 念頭にあるのは、覇権主義的な動きを強める中国の存在だ。

 共同声明では、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。

 バイデン政権は半導体製造で影響力を増す中国を警戒しており、会談では中国の半導体に対する世界的な依存度が高まることへの危機感なども共有した。

 中国外務省は、内政干渉だとして強烈な不満を表明している。分断がさらに深まり、日中関係の一層の悪化が危惧される。

 懸念するのは、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への大幅増をはじめ、岸田政権が加速させた日米間の防衛協力が、さらに強まる可能性があることだ。

 共同声明が打ち出した自衛隊在日米軍の連携強化では、日本は2024年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を新設する。

 日米の共同対処力を高める効果の一方、司令部が強化され、自衛隊と米軍の連携が密になれば、有事の際に米軍による武力攻撃と一体化しかねない。指揮権を米軍が握る可能性や、日本が標的になる恐れも指摘されている。

 首相の姿勢は前のめりに映る。主権に関わる問題であり、国民の理解を得ることが必須だ。

 共同声明では、米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の第2の柱である先進能力分野で、日本との協力を検討することも示された。極超音速兵器やAIの共同開発が視野に入る。

 米側には軍事的に台頭する中国に対抗する狙いがあるが、日本は慎重に対応しなくてはならない。

 共同声明は、中国と意思疎通する重要性も強調した。

 日中間では、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴う海産物輸出を巡る問題や、スパイ容疑で拘束されている邦人の釈放をはじめ課題が山積している。

 解決には、首相と習近平国家主席との直接対話が不可欠ながら、対面会談は2回にとどまる。

 国益を守るために、首相には、米国を重視するだけではない戦略的な外交姿勢を求めたい。

 

日米同盟の深化/国民の理解は得られるか(2024年4月12日『神戸新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相は米ワシントンでバイデン大統領と会談し、安全保障や経済、宇宙など幅広い分野での連携強化を確認した。日本の首相の国賓待遇での訪米は9年ぶりとなる。

 両首脳が強調したのは、自衛隊在日米軍の指揮統制見直しの合意だ。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに合わせ、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)を格上げし、共同訓練の企画立案や実動部隊の指揮権を一部付与する案を検討する。ミサイルなど防衛装備品の共同開発を促進し、日本企業が米艦船・航空機の補修に従事できる仕組みも整える。

 米側が描くのは「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対抗戦略である。そこに日本が完全に組み込まれ、専守防衛の域を超えて米軍との一体化が進む懸念は拭えない。


 岸田政権は地ならしに余念がなかった。22年に安保関連3文書を改定し、防衛費の大幅増や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、防衛装備品の第三国輸出解禁を次々に決めた。平和主義に基づく戦後日本の安全保障政策を転換することで、今回の「日米同盟の歴史的な更新」(米国務省)を可能にしたと言える。

 問題は、首相がそれを与党協議と閣議決定という政権内の手続きで推し進めてきた経緯である。国民への丁寧な説明と合意形成の努力を欠いたまま、首脳レベルの「約束」として既成事実化してしまう。国民不在の政治手法と言わざるを得ない。

 共同声明は、東・南シナ海での中国の一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。日本側には、中国が威圧的行動を繰り返す沖縄県尖閣諸島が米国の対日防衛義務の適用対象と明記され、抑止効果が高まるとの期待もある。だが、中国側が不信感を募らせ、強硬姿勢に傾くようでは元も子もない。日本は独自に対中対話を活性化する必要がある。

 11月の米大統領選で「米国第一主義」を掲げるトランプ氏が返り咲けば合意も覆りかねない。党派を超えて日米関係の重要性を訴える地道な外交努力が不可欠だ。

 北朝鮮を巡っては日本人拉致問題解決への協力を再確認した。ロシアの侵攻が続くウクライナの支援も申し合わせた。人道危機に全力で向き合ってこそ、国民は両国関係の深化を実感できるだろう。

 岸田内閣の支持率は自民党の裏金問題などで20%台に落ち込んだ。首相は外交成果を政権浮揚につなげたい考えだが、合意を国民の納得なしに実行に移せば不信は高まるばかりである。安保政策の大転換について、改めて国民の理解を得る努力を尽くさねばならない。

 

【日米首脳会談】国民への説明欠く一体化(2024年4月12日『高知新聞』-「社説」)

 日米同盟は前例のない高みに到達し、防衛・安全保障協力はかつてないほど強固になった。両国の関係を共同声明はこう位置付けるが、国民の理解や支持はどれほど高まっているだろう。説明を欠いた取り組みでは分断を招いてしまう。
 岸田文雄首相はバイデン米大統領と会談した。首相はグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だと述べ、世界の課題に共に対処すると強調した。
 インド太平洋地域で中国が影響力を増している。両首脳は日米同盟の抑止力、対処力強化が急務だと確認し、自衛隊在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しで合意した。政府は陸海空3自衛隊を一元的に指揮する常設の「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させる考えだ。
 自衛隊と米軍は台湾有事を想定した共同作戦計画を策定するなど、一体的な運用が加速している。指揮・統制枠組みの見直しで部隊の運用性向上を見込むが、自衛隊の指揮権を米軍に委ね、米軍の武力行使と一体化する恐れが拭えない。政府はおのおの独立した指揮系統に従って行動すると説明しているが、議論は尽くされてはいない。
 岸田政権は国家安全保障戦略などを改定し、安保政策を転換した。防衛費増額の方針を掲げ、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出した。専守防衛の理念は形骸化し、日本が「盾」、米国が「矛」を担った日米同盟の変容が進む。
 会談では、防衛装備品の共同開発に向けた協議体創設を確認した。政府は防衛装備品の輸出拡大を狙う。殺傷能力が高い戦闘機の輸出に踏み切る方針だ。日米の安保協力が防衛産業分野でも強化される。
 経済分野では、投資拡大を歓迎し、人工知能(AI)や半導体、量子技術の分野での協力を促進する。また、中国の経済的威圧をにらみ、半導体など戦略物資のサプライチェーン(供給網)構築をはじめ、経済安保分野の連携で一致した。
 今訪米では、フィリピンのマルコス大統領を交えた初の日米比首脳会談が実施される。米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組みAUKUS(オーカス)は、日本との協力検討を明らかにした。対中包囲網を強める動きが広がる。
 対立を先鋭化させないために対話の重要性が増す。共同声明では中国と意思疎通する重要性を取り上げ、共通する課題での協力にも言及している。こうした姿勢を建設的な関係へとつなげることが重要だ。粘り強い取り組みが求められる。
 支持率が低迷する首相にとって、日米の緊密さを見せることで政権浮揚を図りたい思惑が透ける。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件にまつわる処分を訪米前に行ったのも、区切りを演出したかったためとみられる。
 狙い通りにいくかは不明だが、見られているのは首相が説明責任とどう向き合うかだ。その姿勢を欠くようでは信頼は高まらない。

日米首脳会談 対話の手だて探る努力も(2024年4月12日『熊本日日新聞』-「社説」

 岸田文雄首相とバイデン米大統領ホワイトハウスで会談した。インド太平洋地域で影響力を増す中国を念頭に、日米同盟の対処力を強化することで一致。先端技術分野での協力推進や、半導体などのサプライチェーン(供給網)構築を急ぐことも合意し、あらゆる分野で足並みをそろえて中国の脅威に対応する方針を示した。

 日本の首相が国賓待遇で公式訪米したのは、2015年の安倍晋三氏以来、9年ぶりのことだ。バイデン氏には、同盟国と協調して中国に対抗する姿勢をアピールすることで11月の大統領選を優位に進めたいとの思惑があろう。

 岸田首相も、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で政権の基盤が大きく揺らいでいる。米国との良好な関係を打ち出すことで支持離れを食い止め、苦境の打開を図りたいとの狙いが透ける。

 共同記者会見で岸田首相は、日米同盟について「今こそグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だ」と述べた。ただ、会談で合意した内容は多岐にわたり、どこまで具体化できるか現時点では見通せないものも多い。

 さらに、有事に向けた危機意識が強調され、対話によって世界を平和へ導く姿勢は希薄に映った。国際社会はもちろん、それぞれの自国においても広範な理解と支持が得られるかは未知数だ。

 日本としては、米国に偏重するだけでなく、中国とも対話を重ねるべきだろう。どのように働きかければ日中のハイレベルな対話が進むのか、効果的な手だてを探る努力も積み重ねてほしい。

 首脳会談では、自衛隊と米軍の相互運用を容易にするため指揮・統制の枠組みを見直すことが確認された。日本が本年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を発足させることを受け、米国は在日米軍司令部の機能を高める。

 防衛装備品を共同で開発・生産するための協議体を設立することでも合意。日本の民間企業が在日米海軍の艦船の大規模補修を行えるようにする枠組みも整える。

 両国は、軍事力を増強して威圧的行動に出ている中国を抑止し台湾有事に備えたい、との思惑で一致している。ただ、在日米軍司令部の機能強化に対しては米側に慎重論があるようだ。防衛面の関係見直しが米主導で進めば、自衛隊の指揮権を米軍に委ねることになるとの懸念もある。日米関係のたがが外れることのないよう、丁寧な議論を重ねる必要がある。

 対北朝鮮では、日本人拉致問題の解決に意欲を示す岸田首相の姿勢をバイデン氏が支持。科学技術関連では、次世代太陽電池人工知能(AI)、量子といった先端分野での関係強化を確認した。

 貿易の制限で圧力をかける経済的威圧を認めず、自由な経済秩序を守る意思も共有した。こちらも中国の動きを念頭に置いたものだが、同盟国を巻き込んでの「対中包囲網」強化は分断を一層深める恐れをはらんでいることも覚悟しておかねばなるまい。

 

鐘か、ラッパか(2024年4月12日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 坂本龍馬が、勝海舟の添え書きを持って西郷隆盛に面会した。勝への報告でいわく。「なるほど西郷というやつは、わからぬやつだ。少しくたたけば少しく響き、大きくたたけば大きく響く」。勝の語録『氷川清話』にある

▼これと同様の論を中国の古典『墨子』で見つけたと、歴史作家の半藤一利さんが自著『人間であることをやめるな』(講談社文庫)に記している。「君子はいうなれば鐘のようなもの。たたけば鳴り、たたかなければ鳴らない」と

▼さて相まみえた両国トップは、それぞれの鐘をたたき大きく鳴らすことはできたのか。ホワイトハウスで開かれた日米首脳会談である

▼発表された共同声明では、自衛隊在日米軍の連携強化に向け、指揮・統制枠組みの見直しで一致した。9年ぶりの国賓待遇に応えて、米国がかねて要望していた日米の防衛協力を、岸田文雄首相が大きく前進させてみせたというところだろう

▼加えて防衛装備品の共同開発・生産を促進する定期協議や、戦闘機操縦士の育成などに向けた作業部会の設置。米軍艦船や航空機の大規模補修に日本企業が従事できる仕組みの整備など。米軍との一体化はさらに強化されそうだ

▼半藤さんは前述の著書で、非戦を説いた墨子の次のような言葉も紹介している。「不義の戦争は、攻める国にも攻められる国にも少しも利益をもたらさない。この場合は君子はたたかれなくとも大きく鳴る必要がある」。墨子が聞けば共同声明は平和の鐘か、それとも勇ましきラッパであるか。

 

日米首脳共同声明(2024年4月12日『しんぶん赤旗』-「主張」)

危険な安保大変質に未来なし
 岸田文雄首相とバイデン米大統領は10日、米ワシントンのホワイトハウスで会談し、「日米首脳共同声明」を発表しました。

 共同声明は、敵基地攻撃能力の保有をはじめ、岸田政権が憲法の平和主義をじゅうりんし強行してきた数々の安全保障政策の大転換を持ち上げ、今後も、米軍と自衛隊のシームレスな(切れ目のない)統合など、憲法破壊の一層危険な政策を推し進めていくことを表明しました。

 声明のタイトルは「未来のためのグローバル・パートナー」ですが、それが指し示す方向は、アジア太平洋地域の分断と軍事的緊張を激化させ、平和と安定を脅かす未来なき道です。

■戦争国家化を加速
 今回の岸田首相の訪米は、米国の招待による国賓待遇での公式訪問です。日本の首相としては、2015年4月の安倍晋三氏以来9年ぶりです。両氏の公式訪米はいずれも、戦後日本の安保政策を大転換したさなかに行われ、「戦争国家づくり」をさらに加速する跳躍台となっています。

 安倍氏の公式訪米は、歴代政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を認める閣議決定(14年7月)の翌年でした。安倍氏は首脳会談や米議会での演説で、閣議決定に基づき、海外での米軍の戦争に自衛隊が参戦することを可能にする安保法制=戦争法の成立を誓約しました。

 岸田氏の公式訪米も、歴代政府が違憲としてきた敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ安保3文書の閣議決定(22年12月)を受けたものです。

 米国のエマニュエル駐日大使は岸田氏の国賓待遇での米国招待について、安保3文書に明記された軍事費の国内総生産(GDP)比2%への増額や敵基地攻撃能力の保有、そのための米国製巡航ミサイル・トマホークの購入を挙げ、「岸田政権は2年間で、70年来の(日本の安全保障)政策の隅々に手を入れ、根底から覆した」と述べています(「産経」5日付)。

 実際、共同声明も、安保3文書に基づく「防衛力の抜本的強化」の取り組みが「日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓(ひら)く」などと強調しています。

■阻止の国民運動を
 重大なのは、共同声明が日米同盟をさらに危険な段階に引き上げ、大変質させようとしていることです。

 岸田政権は、安保3文書に基づき、陸・海・空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を24年度中に創設します。これを踏まえ、共同声明は、「日米同盟をさらに前進させる」とし、米軍と自衛隊の作戦や能力をシームレスに統合し、平時でも有事(戦時)でも共同して計画を練り、一体となって動けるように、「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と表明しました。

 狙いは、米軍が進める対中国軍事戦略に、長距離ミサイルなど敵基地攻撃能力を持ち、南西地域での態勢強化を図る自衛隊を組み込むことです。平時から自衛隊が米軍の指揮下に置かれ、有事になれば有無を言わさず動員される危険があります。急加速する「戦争国家づくり」阻止の国民的な運動が求められます。