自民の裏金問題、再発したら何らか罰を確実に科せる仕組みが必要 真相解明を続けながら防止策の議論を(2024年4月14日『東京新聞』)

<政治とカネ考> 東大大学院・谷口将紀教授
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、衆参両院に政治改革特別委員会が設置され、政治資金規正法改正に向けた議論が本格化する。自民党の調査では実態解明が進まず、関係議員に対する党の処分は公平さに欠ける内容だった。政治の信頼を取り戻すため、国会は制度改革にどう取り組むべきか。東大大学院の谷口将紀教授に聞いた。(坂田奈央)

 たにぐち・まさき 1970年生まれ。専門は現代日本政治論。東京大大学院法学政治学研究科の准教授などを経て、09年同教授。24年4月から東京大公共政策大学院教授。公益財団法人NIRA総合研究開発機構代表理事も務める。著書に「現代日本の代表制民主政治」(東京大学出版会)など。

◆国会は政治改革をやり遂げないといけない

 自民党総裁岸田文雄首相は処分の対象外だった。国民は納得していない。
 「自民党の対応が不十分であれば、最後は国民が判断する。究極的には、国民は(選挙の)一票で首相を辞めさせられる」
 ―自民党の調査と処分では国民の信頼を回復できなかった。国会はどう対応すべきか。
 「政治改革をやり遂げることだ。岸田さんでも、岸田さんの次の人でもいい。とにかく政治改革をきっちりやり遂げる環境を整えていくことが大事だ」
 ―特別委が設置され、ようやく国会で改革議論が始まる。
政治改革について話す東大大学院の谷口将紀教授

政治改革について話す東大大学院の谷口将紀教授

 「真相解明をしなくていいとは決して言わないが、すべて解明し切らなくては次にいけないという論法では、次に進めなくなってしまう。両面作戦を始める時期だ。再発防止の議論もしなければいけない。今国会の会期は残り約2カ月。遅いくらいだ」

◆パー券購入側の公開基準の引き上げが必要

 ―最低でも改革しなければならない課題は。
 「裏金事件に直接絡む点としては、パーティー券の購入団体や個人の公開基準を、現行の『20万円超』から少なくとも寄付と同様の『5万円超』に引き下げる。パーティー券の売買を含む政治資金の現金授受も禁止することだ」
 ―抜本的な再発防止策として考えられる対策は。
 「現状では、政治資金収支報告書に疑義があっても総務省には積極的な調査を行う権限がない。ならば、行政から独立性の高い第三者機関を設け、立ち入り調査や行政罰を下す権限を与えることだ」

◆二度と同じ事件が起きないように

 連座制を求める声が高まっている。
 「国会議員を辞職させるだけでなく、不記載の分だけ罰金を科したり、政党交付金を減額したりするなど、罰則にも段階があってしかるべきだ。第三者機関があれば、こうした行政罰の仕組みを整えることもできるだろう」
 ―政治の信頼は回復できるか。
 「国民が望んでいるのは、再び政治とカネの事件が起きた際に、党内の処分だけでなく、何らかの罰を確実に科せる仕組みづくりだ。制度の抜け穴をしっかりとふさぎ、二度と同じ事件が起きない環境を整えなければならない」

 政治資金規正法 1948年施行。民主政治の発達を目的に、政治家や政党の政治資金の収支公開や寄付などについて定める。収支報告書は政党や政党支部、政治家の資金管理団体、派閥や後援会などの政治団体が作成し、毎年公表する。リクルート事件(88年発覚)を受けた94年の改正で、政治家個人に対する企業・団体献金は禁じられたが、政党や、政治家が代表を務める支部は対象外とされ、抜け穴として残った。パーティー券の購入は寄付には当たらず、1回150万円まで可能。20万円を超える購入者の名前は公表される。