高血圧患者も注意が必要? 気温の上昇で増えてくる「低血圧」 トイレで倒れてしまわないために(2024年4月14日『毎日新聞』)

 

 春になり、暖かい日も増えてきました。夏に向かって、気温が上がってくると増えるのが、低血圧による体調不良です。暖かくなると、末梢(まっしょう)血管が広がるため、血圧が下がってくるのです。高血圧の方でも、状況によっては突然低血圧になることもあり、注意が必要です。連載のタイトルは「楽しく下げる高血圧」ですが、今回は低血圧の対処法についてお伝えしたいと思います。

 低血圧には、高血圧のような明確な診断基準はないのですが、上の血圧が100mmHg以下を低血圧とすることが多いです。ただ血圧が低くても、日常生活で困ったことがなければ、あわてて対処する必要はありません。

 低血圧でどんな症状が起こるのか、看護学校の学生を対象に調べたことがありました。低血圧の症状があると答えた方は49人でしたが、自覚症状は多い順に「体のだるさ(44.9%)」「めまい・ふらつき(32.7%)」「起立時のめまい(26.5%)」「頭がぼうっとする20.4%)」「眠気(18.4%)」「気力の低下(16.3%)」「手足の冷感(16.3%)」――と、実にさまざまでした。また、こうした症状が起きるのは午前5~6時台が多く、午後には症状が出ませんでした。

 血圧の調整には自律神経が関わっています。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、朝起きて活動するときには交感神経が、夜寝るときには副交感神経が活発に働きます。交感神経が活発だと血圧は上がり、副交感神経が活発だと下がります。低血圧による体調不良が午前中に多いのは、交感神経がしっかりと機能するのに時間がかかっているためだと考えられます。

弾性ストッキングとチェダーチーズ

 実は「血圧を上げる薬」には、あまり期待できるものがありません。以前は比較的よく効く薬があったのですが、発売中止になりました。日ごろから低血圧で体調が悪くなる人に、おすすめしたいことを四つご紹介します。

 まず、朝起きたら、水をコップ1~2杯飲みましょう。寝ている間に大量に汗をかきます。脱水状態になっていると、血圧が下がってしまいます。水を飲むことで交感神経も緊張して、血圧の上昇が期待できます。また、交感神経の機能を高めるため、朝熱めのシャワーを浴びるのもおすすめです。

 弾性ストッキングの着用も効果があります。着用前と着用後を比較すると、24時間血圧計で測定した上の血圧が着用後平均3mmHg上がりました。

 チェダーチーズを食べるのもおすすめです。チェダーチーズには、血圧を上げるホルモンの材料になる物質のチラミンがたくさん含まれています。低血圧の方にチェダーチーズを毎日50g食べてもらったところ、24時間血圧計で測定した上の血圧が平均5mmHgも上がりました。また、血圧が低過ぎて、起き上がるのも大変という方に1日100g食べてもらったところ、普通に生活できるようになりました。

 逆に高血圧の方は、チェダーチーズは、血圧が高くなるので食べ過ぎない方がよいと思います。

 もしも血圧が低下して気持ちが悪くなってしまったら、その場でまず足踏みをしてみましょう。血圧が上がります。以前、低血圧で受診された患者さんが、血圧が下がり過ぎて、レントゲン室から動けなくなってしまったことがありました。そこで、その場で足踏みをしていただいたところ、上の血圧が93mmHgから101mmHgに回復し、診察室まで移動することができました。足踏みも難しいときには、しゃがんで体調が回復するのを待ちましょう。

ご飯を食べると具合が悪くなる?

 朝ご飯を食べると、だるくなる、具合が悪くなるという方がいらっしゃいます。実は「食後低血圧」といって、食後に低血圧になることがあるのです。食事をすると栄養を吸収しやすいように、消化管の血管を広げるアデノシンという物質が出るのですが、血管が広がってしまう結果、血圧も下がってしまいます。

 こうした方へおすすめしたいのは、コーヒーです。コーヒーの中に含まれているカフェインがアデノシンの働きを抑えるためです。食後よりも、食前に飲むのがよりおすすめです。ただし、砂糖を入れるのは控えましょう。砂糖は食後低血圧を引き起こすため、カフェインの効果が弱くなるからです。牛乳は入れても構いません。コーヒーが苦手な方は、玉露などの濃いめのお茶を飲んでも良いと思います。

高血圧でも要注意…