香害」は神経障害による症状か 専門医らが症例分析 疼痛治療薬で患者の多数改善(2024年4月11日『産経新聞』)

 
神経疼痛を和らげる治療薬「タリージェ」が香害患者に有効か

柔軟剤や制汗剤の香りが原因で頭痛や吐き気を生じる「香害(こうがい)」の患者に神経疼痛(とうつう)の治療薬を処方したところ、約3分の2に症状の改善がみられたことが11日、分かった。発症の原因が明らかになっていなかったが、神経障害などの原因疾患で引き起こされる症状の一つとみられる。専門医は「治療法がないとされてきたが、原因疾患に対処することで症状を改善できる」としている。

香害は化学物質過敏症(CS)の一種で、ある日を境に、柔軟剤などの匂いで頭痛などの症状が出るようになる。これまで、匂いを避けて生活する以外に有効な治療法がないとされ、患者の社会生活に大きな影を落としてきた。

発症のメカニズムは明らかになっておらず、堺市北区で「香害外来」を開設する典子エンジェルクリニックの舩越典子院長や、東京女子医大の医師らが症例を研究。平成28年以降に香害を訴えた患者111人の経過を調べたところ、神経疼痛の治療薬を投与した患者の約3分の2に症状の改善がみられたことが分かった。

舩越氏によると、香害患者の約8割にビタミンDや亜鉛の欠乏がみられ、神経疼痛のほか栄養欠乏や慢性上咽頭炎統合失調症などと併発する例があるという。

香害の専門外来を設置している典子エンジェルクリニックの舩越典子院長=2月、堺市北区

舩越氏は「香害はそれ自体が病気というより、他の病気によってもたらされる症状の一つと捉えるべきだ」と話し、症例研究を続けて治療法の確立につなげたいとしている。

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医療機関に勤める40代の女性は平成29年、初めて香害の症状を自覚した。以前から柔軟剤の香りが苦手だったが、勤務先の患者が持っていた香袋で頭痛や吐き気に襲われた。それ以降、外出に分厚いマスクが欠かせなくなったという。

周囲の香りで体調を崩すのが怖くなり、外食もままならなくなった。食事療法やサプリメントなどを試したが効果はない。専門医に「治すことはできない」といわれ、絶望したという。

令和4年に典子エンジェルクリニックを受診。舩越典子院長は女性の既往歴に着目した。女性は過去に何度も交通事故を経験し、神経を損傷していた。舩越氏が「神経にダメージが生じた結果、香りに過敏になっている」とみて神経疼痛を和らげる治療薬「タリージェ」を処方したところ、数週間で症状が緩和したという。

女性は服薬を継続し、発症以前と同じような生活を送っている。「今では友人とカフェにも行ける」と笑顔を見せた。(花輪理徳)