外国人育成就労 人権状況改善 課題残る(2024年4月11日『北海道新聞』-「社説」)

 政府は外国人技能実習に代わる新制度「育成就労」の創設を柱とした、入管難民法などの改正案を国会に提出した。
 育成就労は原則3年で技能や日本語を学んでもらう。最長5年働ける特定技能1号と対象分野をそろえて移行しやすくした。
 焦点だった転籍(職場変更)も可能にした。これまで長時間労働などを強いられても職場を変えられず、国際社会から「奴隷制度」などと批判されてきたためだ。
 政府の有識者会議は就労1年超で転籍を認める案を当初まとめたが、都市部への流出を懸念する自民党が難色を示し、法案は1~2年制限できるようにした。
 転籍に必要な日本語の能力も有識者案より高く設定できることになった。これで人権状況が改善されるか、疑問が残る。
 国会審議では新制度が外国人の労働環境の是正や共生社会の実現につながるよう、法案修正を含めて議論を深めてもらいたい。
 国際貢献を掲げた技能実習は、実際には労働力確保の手段とされてきた。一部で賃金未払いや人権侵害が起き、失踪者も続出した。
 道内でも実習生が安全面の配慮が乏しい職場で重傷を負ったり、正当な賃金が支払われなかったりする法令違反が後を絶たない。
 制度の見直しで企業側の意識改革を促す効果が期待される。
 ただ原則3年の期間のうち2年の制限を受け、残り1年で転籍を希望しても受け入れ先から敬遠されかねない。企業側の事情で制限を延ばすのなら、それに見合う待遇を用意しなくてはならない。
 人口減少が進む道内では、外国人実習生が貴重な人材となってきた現実がある。将来も外国人に選ばれるためには、給与などを改善していく必要がある。
 外国人には住みやすい環境や仕事の丁寧な指導などを重視する声もある。企業側は魅力ある職場づくりに知恵を絞りたい。
 見知らぬ土地に来て不安を感じる外国人を孤立させぬよう、自治体や地域社会が言語面の対応を含めて支えていく姿勢も肝要だ。
 法案には有識者会議で議論されなかった永住許可の適正化が盛り込まれた。税金や社会保険料の支払いなどを要件として明記し、故意に怠った場合は永住者の在留資格を取り消せるとした。
 日本弁護士連合会は現状でも差し押さえで対応可能と指摘している。日本に生活基盤を築いた外国人を不安にさせ、共生の目標に逆行する規定は撤回すべきだ。