技能実習制度見直し 国の責任で実効性高めよ(2024年3月24日『中国新聞』-「社説」)

 とかく不評が絶えなかった技能実習制度に代わる「育成就労制度」の創設へ向けた法案を、政府が国会に提出した。成立すれば2027年にもスタートする。

 1993年に始まった技能実習制度は、人材育成による国際貢献や途上国への技術移転を目標にしてきた。しかし、安い労働力の安易な確保策という批判が絶えず、賃金未払いやハラスメントなどがたびたび問題になってきた。

 新制度では外国人労働者本人の希望で勤務先を変更する「転籍」を条件付きで認めることなどが柱になる。育成就労から、外国人を即戦力と位置付ける特定技能へとスキルアップさせ、中長期的な就労につなげていく考えという。

 原則3年間は勤務先を変えられず、実習生が窮して失踪が相次いでいる。その現実を踏まえれば見直しは当然だ。外国人の人権を守る法整備をより実効的なものにしなくてはならない。

 ただ、法案では、当面は受け入れ企業が最長2年間、引き留めることが可能な内容になった。自民党などから「地方から賃金の高い都市部に人材が流出しかねない」と異論が出て、政府の有識者会議が示した「1年超」からは後退した感もある。実習生を引き留める場合は、待遇改善などをきちんと行うよう、国が監視を強めるべきだろう。

 人権の尊重がとりわけ求められるのは言うまでもない。東広島市では昨年、実習生のベトナム人女性が生後間もない男児の遺体を遺棄する事件も起きている。「出産すれば帰国させられる」と考え、犯行に及んだ経緯を考えれば、女性を責めるより前に、やることがあるはずだ。

 外国人労働者出産育児一時金や産前産後休暇などを取得できる。にもかかわらず、母国の送り出し機関だけでなく、日本国内のサポート機関でも妊娠を認めないような対応が取られていた。受け入れ企業はもちろん、国も外国人労働者に対する人権意識を改めなくては、制度はうまく定着できまい。

 技能実習制度では日本語能力が低い人材でも来日が可能で、日本が安易な出稼ぎ先に選ばれてきたことも課題の一つだった。契約書の内容を理解しないまま渡航し、受け入れ企業ともめたり、人間関係をこじらせたりするケースも少なくなかった。日本語の能力が低く、学ぶ意欲もない一部の実習生を、悪質ブローカーや反社会的集団が取り込んで犯罪に加担させている現実も浮かび上がっている。

 ところが新制度も事実上、無試験で来日が可能となる見通しだ。今後の労働力を外国人に期待する狙いがあるとしても、日本語能力に目をつぶったままでは、トラブルが減ることにはなるまい。実習生にとっても不幸な話である。

 人口減が進む日本では、外国人労働者抜きには社会が成り立たなくなりつつある。外国人の就労条件を整備し、長く滞在してもらえるような仕組みにしなければ将来の展望は描けまい。共生社会へ向けた、法整備のあり方をしっかり議論してもらいたい。