◆倒壊のおそれある自宅、車で暮らす障害者も
いしかわ総合スポーツセンターに避難するまで、弟とともに車内や車庫で暮らした。町会長が時々様子を見に来たが、支援物資や仮設浴場の情報は自分で調べ、生活をつないだ。
酒井さんのように、指定避難所や自主避難所に行かない聴覚障害者は少なくない。藤平さんは「手話通訳者がいない、周囲に迷惑をかけてしまうかもしれないなどの理由で、地域の避難所に行くことをためらい、被災した自宅などで避難生活を送っているケースはよくある」と指摘する。
◆ノウハウを持つ「やなぎだハウス」の認定を
奥能登に聴覚障害者福祉避難所を設置する上で、能登地方特有の手話に対応できる手話通訳者の育成も求められる。能登には日本で主に使われる手話のうち、日本語とは別の文法を持つ「日本手話」を基に独自に形づくられた手話がある。藤平さんによると、協会登録の県内手話通訳者108人のうち対応できるのは2人程度しかいない。
藤平さんは「聴覚障害者が避難所内で孤立するのは最も避けなければならない」と強調する。協会は奥能登ろうあ協会とともに2007年から、県に聴覚障害者支援のノウハウがあるやなぎだハウスを、福祉避難所に認定するよう要望。「聴覚障害者福祉避難所の設置は急がなければならないが、行政の協力なしには難しい」と官民で検討する必要性を説く。
手話 手や指の動きを使って視覚的に表現する言語。手話をコミュニケーションの主たる手段とする人が「ろう者」。日本のろう者が使う「日本手話」は独自の文法があり、日本語とは全く異なる言語。日本語の関西弁や東北弁のように、語彙(ごい)の多くが地域で異なる方言もある。日本語と同じ語順で発声しながら手話単語や指文字を並べて表現する「日本語対応手話」は、主に病気などによる中途失聴者や難聴者が使っている。