[検証 万博の現在地]<1>建設費 輪をかけ膨張…大屋根整備、人件費も高騰(2024年4月10日)

 万博を誘致していた当時、会場の計画は現在と全く違っていた。多様性を表現するため中心は設けず、パビリオンが幾何学模様のように入り組んで配置されていた。会場内5か所に「空」と名付けた大広場を設け、屋根のついた通路で結ぶ予定だった。これが20年12月に策定された基本計画で、リングに変更された。

 会場デザインプロデューサーで建築家の藤本壮介(52)は「当時、米国ではトランプ大統領が就任していた。『非中心』という言葉は『分断』を象徴することになりかねない。(リングによって)多様なものがつながるというメッセージを打ち出したかった」と説明する。

 以前の屋根の建設費は180億円で、リングへの変更で164億円増額された。会場建設費全体でも1250億円から600億円増えた。1回目の増額だ。

 会場計画の変更は経済産業省や府などの出向者らでつくる万博協会の一部の幹部らで検討された。理事には書面で同意が求められ、事前に理事会で議論された形跡は確認できない。ある協会幹部は「20年中に計画を公表するため、承認を急いだ」と説明する。

 万博協会理事で関西経済連合会会長の松本正義(79)は昨年11月の記者会見で、リングについて「なんでこんなもん作るんやと思った。経済界が『イエス』と言ったかは記憶にない」と不満を漏らした。

 費用膨張の背景には、こうした万博協会の閉鎖体質や説明不足があるとの見方は強い。増額を繰り返した結果、会場内に設けるトイレの予定価格も引き上げられないような切迫した状況を招いた。

 費用を適正に管理するため、経済産業省は今年1月、監査法人の代表や弁護士ら7人でつくる第三者委員会を設置した。万博協会も運営費をチェックする内部組織を作った。

 万博相の自見英子は2月の国会答弁で、「無用な国民負担を生じさせないよう、不断の見直しに全身全霊で努める」と強調した。

 会場建設費2350億円のうち、契約済みは2月末時点で1628億円。予備費の130億円を除くと、残りは592億円で、既に交わした契約を変更して行う追加工事が多くなる見通しだ。実際、昨年11月末から今年2月末までに会場建設費関連で支出が決まった120億円のうち、85%の102億円が植栽や舗装などの追加工事だった。

 万博協会は追加工事のリストを作成し、592億円の枠内で収まるとしているが、物価上昇や人件費の高騰で費用が膨らむリスクをはらむ。発注後速やかにネット上で公開される新規入札と異なり、追加工事は3か月ごとの理事会で報告される。 

 財政学が専門の明治大教授、田中秀明は「追加工事は業者の言い値になる恐れがあり、より透明性が求められる。契約すれば速やかに公表すべきだ。情報公開とリスク管理の徹底が費用膨張を防ぐカギになる」と指摘する。

 万博の開幕まで13日で1年となる。準備の進捗を検証し、課題の解決策を探る。(敬称略)

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