腹巻きと団子(2024年4月8日『山陰中央新報』-「明窓」)

道端に生えている野草のヨモギ=高知県四万十市(資料)
道端に生えている野草のヨモギ高知県四万十市(資料)
 
塩ゆでしたヨモギを入れたおにぎり
塩ゆでしたヨモギを入れたおにぎり
 

 一足先に〝腹回り〟の衣替えをしようと先日、タンスに手を伸ばした。厚手の腹巻きをヨモギやアカネで染めた薄手の物に替える。酷暑の真夏でも着用しているおかげか、病気知らずである

▼江戸時代後期の儒学者佐藤一斎語録『言志四録』に「小薬はこれ草根木皮、大薬はこれ飲食衣服、薬原はこれ心を治め身を修むるなり」とある。漢方薬である草の根や木の皮、治療の鍼灸(しんきゅう)よりも、普段の食事や着る物が心身に大事であるという意味で、身体が喜ぶ物を身にまとうことは、良い食事をするのと同様に大切ということだろう

▼薬を飲むことを「服用」という。衣類を身に着けるという意味もあり、服はまさに着る薬なのだ。中でも草木染めは、皮膚から直接薬効を取り込むことができるとされ、色合いの美しさとともに、草木のエネルギーをいただく、ありがたい営みだ

▼古代から染料に使われるアカネは止血や血液浄化、解熱といった効能から、女性の体を守る薬草として、肌に直接触れる産着や肌着などを染める習慣があり、女性ホルモンの変動に伴う不調「血の道症」の薬草に用いられたヨモギも同様だ

アカネ 松江の花図鑑

▼個人的には腹巻き以外も、借りている畑で育つヨモギに、年中世話になっている。冬は乾燥させたヨモギを煮出し、手軽な薬草風呂で身体を温める。今の時季はもっぱら草団子。若芽をゆでて、あんこを添えて「服用」すると、心身が喜ぶ。(衣)