〈メディアが報じぬ問題の本質〉小林製薬の責任は重大だが、紅麹サプリメント事故で問われるべきある課題とは?(2024年4月3日)

 小林製薬の紅麹サプリメント(機能性表示食品)を摂取した人に死者を含む健康被害が次々に発生している。新聞やテレビの報道で機能性表示食品の実態や同社の責任を問う報道が目立つが、国の食品安全行政の根本的なあり方を問う指摘はほとんど見られない。新聞やテレビでは報じられていない真の課題をえぐり出す。

公表の遅れで被害拡大

 小林製薬は3月22日、自社が製造する「紅麹」成分を配合した機能性表示食品のサプリメントを摂取した人13人に腎障害などが発生し、5製品の自主回収を実施すると公表した。同26日に「3年間、紅麹サプリメントを摂取した人が腎疾患で死亡した」と公表してからは特に関心が高くなり、同社の責任を問う報道が連日、繰り広げられている。  どのメディアも一致して指摘しているのは会社の対応の遅れだ。「自主回収まで2カ月 情報共有されず被害拡大」(産経新聞3月27日)、「紅麹被害

対応後手 公表から2か月超」(読売新聞3月27日)、「小林製薬公表遅れ 把握から2カ月 原因究明優先」(毎日新聞3月27日)などの見出しがそれを表している。

 食品が原因で健康被害が発生した場合は、一刻も早く公表し、被害を拡大させないことが危機管理の鉄則である。原因究明はあとでもできる。小林製薬はこの基本原則の遵守を怠った。

 小林製薬が最初の症例を知ったのは1月15日のことだ。それ以降に紅麹サプリメントを購入した被害者がいることを考えると、公表が2カ月も遅れたことは、緊急時の危機管理(クライシスコミュニケーション)に失敗したといってもよいだろう。

世の中には3つの健康食品が流通

 今度の問題の注目度を大きくした要因のひとつは、紅麹サプリメントが「悪玉コレステロールを下げる」といった機能性を表示した「機能性表示食品」だったことだ。機能性表示食品は2015年に始まった新しい制度だ。「血圧が高めの方」や「睡眠をサポート」など、一定の健康効果を企業の責任で表示し、その効果の根拠となる資料・研究報告を消費者庁に届け出る仕組みだ。ただし国の審査や許可はない。  これと似た健康食品として、特定保健用食品(トクホ)がある。このトクホは国が有効性や安全性を審議し、消費者庁長官が許可を与えた食品だ。

 

 機能性表示食品は事業者の責任で機能性を表示するのに対し、トクホは国が関与して健康効果の表示を認めたものだ。トクホの申請には1億円以上の費用がかかるといわれるが、機能性表示食品はもっと低い費用で開発できる。その結果、これまでに約6800品目もの機能性表示食品が誕生した。

 ここで知っておきたいのは、ドラッグストアなどで販売されている健康食品には「トクホ」や「機能性表示食品」のほかに、「いわゆる健康食品」が数多く流通していることだ。機能性表示食品の表示の根拠となる資料は消費者庁のホームページで読むことができるのに対し、「いわゆる健康食品」はごく普通に数多く流通していながら、表示の根拠が全くわからず、その根拠となる研究データも公表されていない。

 効果や安全性の信頼性を順序で示すとすれば、トクホが一番で、次に機能性表示食品、そして「いわゆる健康食品」となる。

機能性表示食品自体が問題ではない
 今回の問題で一部メディアでは「機能性表示食品だから健康被害が発生した。機能性表示食品はなくすべきだ」といった意見も出ているが、それは的外れだ。事故を受けて、自見英子消費者相は「機能性表示食品の安全性そのものに大きな疑念を抱かせる深刻な事態だ」(読売新聞3月27日)と語ったが、それを言うなら、全く野放しの「いわゆる健康食品」はどうなるのか。今度の事故は機能性表示食品自体から生じたものではない。 

 では、何が今回の問題を引き起こしたのだろうか。機能性表示食品の制度自体ではなく、企業による品質管理のどこに問題があったかが問われているのである。

 小林製薬は3月29日の会見で青カビがつくる天然化合物「プベルル酸」が紅麹原料から検出されたと公表した。この物質が腎臓疾患の原因かはまだ分からないが、今度の事故が製造工程の品質管理に起因していることは確かだろう。

 健康食品問題に詳しい長村洋一・日本食品安全協会代表理事は「機能性表示食品がいい加減に製造されているから、今度の問題が起きたという認識は間違い」としたうえで次のように指摘する。

 「消費者庁の届け出書類などから類推して、小林製薬は品質管理に相当努めていたと思われる。それでも事故が発生してしまったのは、機能性表示食品制度で要求されている品質管理の甘さが考えられる。現状ではトクホも機能性表示食品も要求されている品質管理のレベルは同じであるため、今回のような事故はトクホにおいても発生する可能性が内在している」

  長村氏が指摘する品質管理の甘さとは、後述するGMP(Good Manufacturing Practice の略。「適正製造規範」と訳す)のことだ。つまり、今度の事故によって、トクホや機能性表示食品のような保健機能食品の制度全体が抱えている品質管理に関する重要な問題点が露呈したと長村氏は考える。

問われるべきは国の食品安全行政

GMP認証マークの誕生

  しかし、そこまでGMPの重要性を認識していながら、法律で義務づけることはなかった。

 一方、この厚労省GMPガイドラインに基づき、メーカーで組織した「日本健康・栄養食品協会」と「日本健康食品規格協会」の2機関は申請企業に対してGMP認証を行い、合格した製品にはGMPマーク(前頁リーフレット画像の下段参照)を付与してきた。ところが、GMP認証マークはほとんど普及していない。646社が加盟する「日本健康・栄養食品協会」はホームページで「GMPは安全な健康食品の製造に必要不可欠です」と強調し、普及に努めてきたが、残念ながらGMPマークのついた健康食品はほとんど見かけない。

 どう厳格化するか 小林製薬の紅麹サプリメント日本健康・栄養食品協会からGMP認定を受けた工場で製造されていたものの、製品にGMPマークはない。やはり問われるべきはGMPの中身であり、2機関の認証の方法が現行のままでよいかも今後の課題となるだろう。

 武田氏は「健康食品の製造に対して、GMPを法律で義務づけている米国では、たとえば原材料の100%同一性を確認する試験が求められており、最終製品のメーカーだけでなく、サプリメント原料の製造企業にもGMP準拠が求められているため、今回のような事故は起こりにくいといえる。米国では国の行政官が工場の立ち入り査察を行っているが、日本では民間の機関(上記の2機関)が規範を作り、監査しているに過ぎない。その差は大きい」と話し、日本のGMPを米国のような先進国並みに厳しくすべきだと訴える。

小林製薬のような一流企業でも事故が起きたことを考えると、機能性表示食品にもなっていない「いわゆる健康食品」では今後、同様の事故が起きる可能性が高い。健康食品の安全性に網をはるGMPが単なるガイドラインでよいはずはない。

今度の事故の教訓は日本の緩いGMPをどう厳格化するかであるが、そうした視点が新聞やテレビの報道では全く欠落している。今回の事故は日本の食品安全行政の弱点を突く重大な課題を突き付けたといえよう。

小島正美

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