新聞をヨム日に関する社説・コラム(2024年4月6日)

新聞をヨム日(2024年4月6日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 

 岡山市のJR岡山駅にほど近い奉還町商店街。3月下旬、地元関係者に案内されて探索する高校生たちの姿があった。岡山南高の新聞部のメンバーだ。何と、学校新聞の「奉還町支局」を近く立ち上げるという

▼生徒らは、商店街の端から端まで丹念に見て回った。車社会の進展などでかつてのにぎわいが失われたが、近年は若者らが次々、空き店舗にカフェなどを出店している。アーケードに掲げられた古い店の看板と、現在の店名が違っていることなどを確認した

▼支局は、中高生が集まる施設「ユースセンター」の中に設ける。取材拠点にして商店街の店や人々の動きを記事にし、魅力を校内や外部に発信する

▼新聞部は、小中高生が対象の「おかやま新聞コンクール」新聞づくりの部で高校最優秀賞に2年連続で輝き、2月に表彰された。そのテーマが岡山市の街づくり。再開発や路面電車岡山駅前広場乗り入れについて、市役所や現場を取材した記事が評価された

▼もともと同高は新聞を授業に取り入れ、社会課題の探究が盛んだ。記事を読み意見を書くなどしてきた。新聞部は街の活性化を取材するうち、自らも役立とうと奉還町で実践に乗り出した

▼きょう4月6日は「新聞をヨム日」だ。新聞の閲読を起点に街づくりを自分事にした生徒たち。地域の重要な担い手になりつつある。

 

新聞をヨム日 世界との距離を縮めて(2024年4月6日『山陰中央新報』-「論説」)

 

米国のバイデン大統領(左)とトランプ前大統領(AP=共同)


 「もしドラ」という言葉が流行したのが2010年のこと。その年のベストセラーになった岩崎夏海さんの小説で、映画やアニメ化もされた「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の略称である。

 14年たった今、「もしドラ」ならぬ「もしトラ」という言葉が世間をにぎわせている。こちらは「もしトランプ氏が米大統領に返り咲いたら」の略称。

 笑い話ではなく、現実味を帯びてきている。米大統領選の共和党候補指名争いで圧勝。世論調査では民主党の現職バイデン氏を上回る支持を集めており、11月の本選で再対決となれば雪辱を果たしそうな勢いという。

 このニュースは山陰で暮らすわれわれにとっても無関係ではない。トランプ氏が同盟国にも強硬に接する「米国第一主義」を復活させ、過度な保護主義政策を進めれば、製造業を中心に影響が出る可能性もある。

 トランプ氏が事前の世論調査結果を覆し、民主党ヒラリー・クリントン氏を破った16年の大統領選を機に、偽情報や誤情報を表す「フェイクニュース」という言葉が世界に広まった。

 マケドニア(現北マケドニア)の学生が広告収入を目的に、大量の偽・誤情報を作成。「ローマ法王がトランプ支持を表明した」「ヒラリーが過激派組織IS(イスラム国)に武器を供与した」などという明らかな偽情報が交流サイト(SNS)を通じて拡散され、投票結果に影響を及ぼしたとされる。

 フェイクニュースは海の向こうの話と思いがちだが、実は身近なところにも浸透している。

 新型コロナウイルスの感染が拡大した頃には「コロナワクチン接種は周囲に病気をまき散らす」「コロナワクチンは人口減少をもくろんだものだ」などの偽情報が拡散。特に「コロナワクチンを打つと不妊になる」という偽情報は世間の大きな注目を集め、厚生労働省が公式に否定する事態になった。

 元日に起きた能登半島地震でも、X(旧ツイッター)を中心に虚偽とみられる救助要請や「人工地震」などという根拠のない情報が拡散された。真偽の分からない情報が氾濫すると、本当に有益な正しい情報が必要な人に届かなくなる。山陰両県民にとっても人ごとではない。

 こうした偽情報を打ち消すのもマスコミの役割だ。最大震度7を観測した16年4月の熊本地震では発生直後、動物園のライオンが脱走したという偽情報が別の画像と共に拡散されたが、地元紙記者が現場を取材し「ライオンは逃げていない」と報じたことで騒ぎが収束した。

 日本新聞協会広告委員会が昨年9~10月に全国の15~79歳の男女1200人を対象に行ったメディア評価の調査によると、新聞は「安心できる」(47・1%)「情報が正確で信頼性が高い」(46・0%)などの評価が、インターネットに比べて高かったという。

 4月6日から1週間は、日本新聞協会が定めた「春の新聞週間」で、初日のきょうは「新聞をヨ(4)ム(6)日」。単なる語呂合わせだけではない。進級・進学や就職といった機会に合わせ、新聞の価値を知ってもらうのが狙いだ。刻々と動く世界との距離を本紙やデジタル版「Sデジ」を通じて縮めてほしい。

 

新聞をヨム日(2024年4月6日『山陰中央新報』-「明窓」)

本紙3面に掲載している「論説」記事の一部


 当欄を担当する論説委員になって丸12年が過ぎた。生まれたばかりの赤ちゃんが小学6年生になる歳月。手がけたコラムは500本を超えた

▼ただ上には上がいる。先日の本紙「新刊」コーナーで紹介したが、神戸新聞の1面コラム「正平調(せいへいちょう)」の執筆を通算16年間務めた林芳樹さんが手がけたのは1927本。同じ「コラム書き」ながら、とても足元にも及ばない

▼論を説かず、情けを語り、光の当たらない一隅を照らし続ける。林さんはそう心がけていたという。新聞の1面コラムは読者の喜怒哀楽に寄り添い、頭ではなく心に訴えかけるのが真骨頂。「情けを語る」とは言い得て妙だ

▼ただし「論を説く」のも文字通り、論説委員の役割。新聞社の考えを表す論説(社説)も担うが、コラムに比べお堅いせいか読者の覚えは芳しくない。小説家丸谷才一氏は新聞社の女性論説委員と政府の攻防を描いた長編作品『女ざかり』(1993年刊行)の中で<新聞の論説は読まれることまことにすくなく、一説によると全国の論説委員を合計した数しか読者がいない>と揶揄(やゆ)していた

▼他紙の仲間と顔を合わせると必ず話に出るのが「どうすれば論説を大勢に読んでもらえるか」。写真を付けるなど試行錯誤しているが、要は読み応えだろう。本紙では3面左上にある。試しに目を向け、頭で感じてほしい。きょう4月6日は語呂合わせで「新聞をヨ(4)ム(6)日」。(健)

 

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