技能実習生の苦境(2024年3月13日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 外国で災害に遭ったら、どれほど不安か。分かりやすく声をかけることができれば喜ばれるに違いない。では「高台に避難を」はどう言えばいいだろう

▼例えば「すぐに高いところに、にげてください」。岡山市が開いた職員、市民向けの「やさしい日本語」講座で習った。難しくはないが、自分も逃げなければと焦る中で、とっさには思いつかないかもしれない

▼やさしい日本語については、この欄で以前も触れた。さまざまな行政情報に広まっているが、もともとは阪神大震災の際、外国人が避難などの情報を得られなかったことから考えられたもの。はっきり、さいごまで、みじかく―。頭文字から「は・さ・み」が会話するときのポイントという

▼必要な人が能登半島地震の被災地にも多かろう。苦境に立たされている技能実習生の記事が先に本紙にあった

▼被害が大きい石川県の6市町だけで約670人の実習生がいる。だが、職場が被災した人が別の職場で3カ月間働ける国の特例措置を使っているのは、開始から約1カ月で45人にとどまっている。周知されていないそうだ。言葉の壁もあろう

▼やさしい日本語には「易しい」だけでなく「優しい」の意味も込められている。実際には相手を思う優しさがまず必要だ。岡山県内の実習生は1万人近い。とっさでも思いつくよう備えたい。