■給食食べた児童が「アナフィラキシー」発症
じんましんが広がり、赤くなった脚・・・。 重度のアレルギー症状である「アナフィラキシー」を発症し救急搬送された児童の様子です。 2023年9月、重度の牛乳アレルギーがある児童が給食で「冷凍クリームコーン」が使われたスープを飲んで発症しました。
■「“今回も入っていない”と思い込んだ」
上越市教育委員会によると、給食を担当する栄養教諭は「冷凍クリームコーン」に牛乳が使われていないと思い込み、事前に原材料を確認しなかったといいます。 これまでに別のメーカーの「冷凍クリームコーン」を使った場合は牛乳が入っていなかったため、“今回も入っていない”と思い込んだといいます。加工品を使用する際には取り寄せる必要がある「配合成分表」も取り寄せず、保護者への説明義務も怠っていました。
【上越市 市川均 教育部長】 「途中でメーカーによって成分が変わることもありうるということなんです。そういうことがあるから毎回確認しなければいけない。なぜ確認しなければならないか、おおもとのところが少し抜けたのかなと」
■事故のあと、児童は・・・
事故のあと救急搬送され、一時入院した児童。その後登校を再開しましたが、保護者によると3か月ほどは学校に行く前に頻繁に腹痛を起こしたほか、給食がトラウマとなり家に戻って昼食をとるという生活が続きました。 いままでは給食が大好きだったという児童ですが、事故以来生活が一変してしまったと言います。 それでも、“もう一度給食を食べられるようになりたい・・・”。 児童や保護者がこれまでの生活を取り戻そうと努力した結果、現在は再び教室で給食が食べられるようになったということです。 また、給食を食べる前には給食に使われている加工品の原材料を児童みずから確認するなど、恐怖を乗り越えるための工夫を常に考えていると言います。 しかし、事故当時と似たようなスープはどうしても飲むことができないなど、心の傷は完全に癒えていないということです。 友達と一緒に給食を食べたい。それでも、あの事故が忘れられない・・・。 児童はいまも葛藤しています。
■「食物アレルギー対策の見直しを」
児童の保護者が教育委員会へ寄せたコメントを抜粋しました。
【保護者コメントより 抜粋】 「たった一度の給食で恐怖へと変わってしまいました。 限られた時間の中で献立を作成し、安心・安全な給食を作ることは大変なことと承知しています。 栄養教諭や調理員の労働環境を整えることで一人一人に余裕が生まれ、事故防止の第一歩につながるのではないかと考えます。 何か一つ、一品でも自分がみんなと同じものを食べられるだけでアレルギーの子にとって喜びにつながります。県全体で食物アレルギー対策を見直していただきたいのです」
■給食アレルギー事故はなぜ起きたのか
給食アレルギー事故はなぜ起きたのか。 市の報告書によると、事故が起きた小学校ではもともとすべての児童に乳製品を使わない給食を提供していました。それでもなぜ今回、口にしてしまう事故が起きたのでしょうか。解説します。
【記者】 「今回、栄養教諭が『冷凍クリームコーン』の配合成分表を取り寄せなかったこと、そして調理員も納品時の原材料の確認を怠ったことで、起きてしまいました。 市の報告書によると、児童は給食を食べて腹痛を訴え一人でトイレに行き10分間こもったといいます。 その後、教室に戻って来た児童を見て担任教諭が異変に気づきました。しかし、症状を緩和する注射薬である『エピペン』の使用をためらい、投与までにかかった時間は8分。トータルではエピペンを打つまでに18分かかったということになります」
■投与までの時間
Q)この18分という時間は早かったのか、それとも遅かったのでしょうか?
【記者】 「東京都調布市では2012年に小学校の給食でアナフィラキシーを起こした児童が死亡するという事故が起きています。事故の報告書によると、このとき児童が発症してから校長がエピペンを打つまでにかかった時間は14分です。 調布市の場合は18分よりも短い時間で打っていますが死亡事故になっているのです。 東京都などでは症状を確認してから5分以内に投与を判断すべきとされています。 新潟県教育委員会は『直ちに』と指導していますが時間については示していません。専門の医師によると投与までに18分かかったのは『判断が遅れた』と指摘しています」
■報告書の内容についてアレルギー専門医は
上越市がまとめた事故報告書では、エピペンを打つまでに18分かかったことに対する評価がされていませんが、アレルギー専門医で児童の主治医でもある田中泰樹医師は、「判断が遅れ、死亡事故にもなりえた事案」と指摘しています。 また、報告書では、児童が摂取したアレルギー物質は「脱脂濃縮乳摂取量0.03g」と記載されている一方、どのくらい危険な量であるかという検証はなされていません。これに対し田中医師が児童が食べたアレルギー食材の量を計算したところ、症状が現れる境界値「いき値」の2000倍近い量であったということです。 田中医師は、「市の検証が不十分」と指摘し、報告書の監修に主治医である自身が関わらなかったことに対しても疑問を呈しています。
■「ためらわずに投与することが大切」
万が一、身近な人がアナフィラキシーを起こしたらどのように対応すればよいのか。 鍵となるのが、症状を緩和する注射薬である「エピペン」です。
【アレルギー専門医 田中泰樹 医師】 「間違って打ってもとんでもないことが起きるわけではない。やらずに手遅れになってしまうというのが困るということです」 田中医師は「エピペン」をためらわずに投与することが大切だと訴えます。 エピペンは、安全キャップを外してしっかりと握り、太ももの前、外側に強く押し込んで数秒待つと投与できます。
■調理の管理体制徹底と緊急時の対応
緊急時に子供を守るために。田中医師は学校現場に対し調理の管理体制を徹底することと緊急時の対応を常に練習することの両方を求めたいと話します。 【アレルギー専門医 田中泰樹 医師】 「誤食してしまったときの医学的なフォロー、カバーする対応も学んでおかなければいけない。誤食させないからエピペンの指導はいらないということにはならない。2つの方向で指導していければいい」 今回事故にあった児童の保護者はアレルギーのことを発信し二度と事故を繰り返してほしくないという思いで 取材を受けてくれました。 重度のアレルギー患者にとってはちょっとした油断が命に直結することを学校現場だけでなく広く世間に知ってほしいと話しています。 また、上越市には現在アレルギー当事者のためのコミュニティがないということで、アレルギーがある子供や保護者のコミュニティも広がり、情報交換や悩みを共有する場も増えてほしいと望んでいます。
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