一番うまく、一番まずい(2024年4月5日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 徳川家康の側室、お梶の方の逸話がある。家康と家臣が「この世で一番うまいものは何か」と話していた際、お梶の方が家康に問われ「それは塩。塩がなければどんな料理も味を調えられず、おいしくできない」と答えた

▼「では一番まずいものは」とのお尋ねには「それも塩。どんなにおいしいものでも、塩を入れ過ぎたら食べられない」と応じた

▼今も昔も料理の味を左右するのは塩加減。そんな塩と味覚にまつわる逸話を思い出させる調査結果だ。健康のため食生活で減塩を試してみたいけれど、3人に1人は「減塩食はおいしくない」とのイメージを持っている―。こんな消費者意識が国立循環器病研究センターの調査で分かったとの記事が先日あった

▼調査は成人1万人に実施。減塩を意識した食生活を「送ったことがある」は36%、「やってみたい」も42%いた。ただ、減塩食品のイメージは「おいしい」が8%の一方、「おいしくない」は33%に上った。美味な減塩食品への期待は大きい

▼塩分取り過ぎは高血圧などに深く関わる。そもそも日本人は、しょうゆ、みそなどで取り過ぎているとされる

▼野菜を多く、麺類のスープは残す、腹八分など減塩になる食習慣が推奨されている。塩分を控えつつ、だしや酢を利かせておいしくする工夫もある。塩と“いい塩梅(あんばい)”に付き合いたい。