改定入管法 送還強化を進める危うさ(2024年4月2日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 難民に門を閉ざす状況は依然として続いている。送還を強化する制度改定の危うさに、あらためて目を向けなければならない。

 出入国在留管理庁は昨年1年間に303人を難民と認定した。前年を100人余り上回り、これまでで最も多い。

 とはいえ、審査した人数全体に占める割合(認定率)は4%に満たない。5割を優に超す英国やカナダをはじめ、欧米各国とはなお大きな隔たりがある。

 認定した人のうち、8割近い237人がアフガニスタンの出身者だ。イスラム主義組織タリバンによる政変後に退避した国際協力機構(JICA)の現地職員と家族らがその多くを占めた。

 アフガン以外の認定は66人にとどまる。日本との関係で特別な事情がある人たちを除けば、難民として保護される人はごく少ないことに変わりはない。

 政府は、難民や迫害の定義を狭く捉え、認定の門戸を閉ざしてきた。迫害の対象として特定されている厳密な証明を本人に求める審査のあり方も、難民を閉め出すことにつながっている。

 その現状を改めないまま、昨年の入管難民法の改定で送還の強化が図られた。難民認定の申請中は強制送還を停止する仕組みに例外を設けることが柱だ。

 送還を免れるために申請が乱用されているとして、3回目になれば送還を可能にした。改定法は6月15日までに施行される。

 難民認定の問題の根幹は、保護すべき難民を保護できていないことにある。それが申請を何度も繰り返さざるを得ない状況を生んでいることにこそ、入管当局は向き合わなくてはならない。

 改定法案の国会審議では、審査のずさんな実態も明るみに出た。法相が任命する参与員による再審査は、公正さや透明性を欠き、保護すべき難民を見逃さない仕組みとしての意味を失っている。

 ミャンマーから逃れた少数民族ロヒンギャの男性が起こした裁判で名古屋高裁は1月、国に難民認定を命じる判決を出した。男性は難民申請を4回にわたって退けられていた。申請の回数を区切って強制送還を可能にすることの危うさが浮かび上がる。

 国際人権条約は、迫害の危険がある国への送還や追放を厳格に禁じている。改定法による送還の強化は、当事者を死地に追いやることになりかねない。あくまで難民認定は適正に行われているとする政府の姿勢、入管行政のあり方を厳しく問う必要がある。