◆「補欠」だった8人の雇い止めは「撤回」されたが…
心理職らでつくる
労働組合「心理職ユニオン」(東京都豊島区)によると、撤回を求めていた組合員は、昨年行われたSCの公募試験で補欠(補充任用)となった8人と不合格だった10人の計18人。同ユニオンは、SCの公募試験は面接の選考基準が明確ではないなどと主張。雇い止めの撤回などを求め東京都
教育委員会と団体交渉をしてきたところ、3月25日になって、補欠だった8人に、採用するとの通知が届いた。
総務省の担当者に要請書を手渡す心理職ユニオン幹部(左)
都
教育庁指導企画課の福田忠春主任指導主事は「選考の結果に基づいて(合格者の中から)辞退者が出ると補充任用の方に順次お声がけをしている。不合格者には任用の通知は送っていない」と述べた。
ユニオンに加入する都SC5人は28日、
非正規公務員の人事制度を管轄する
総務省などの担当者と都内で面会し、要請書を提出。無期雇用で働ける短時間公務員制度の創設や、勤務実績を加味した採用を
自治体に促す通知を新たに出すよう求めた。
東京都スクールカウンセラーの「雇い止め」問題 非正規公務員の新しい人事制度が2020年度に導入されたことを受け、19年度以前から勤務していた人が24年度に契約更新して働くためには公募試験に合格しなければならなくなった。都教育委員会によると、契約更新のため試験を受けたのは1096人。補欠に当たる補充任用や不合格で24年度に採用されない「雇い止め」は250人に上った。新規応募者783人のうち合格者は441人。
◆薄い封筒に「嫌な予感」…開けたら「目の前が真っ暗」
東京都の
スクールカウンセラー(SC)として16年間勤めた
就職氷河期世代の男性(49)は、
東京新聞の子育て情報サイト「東京すくすく」に雇い止めに遭ったことを明かした。「自分たちの世代は、また切り捨てられるのか」と割り切れぬ思いを吐露。保護者からも、経験豊富な相談先を失いかねない状況に不安の声が上がる。
男性は1月下旬に郵送された封筒が例年より薄くて嫌な予感がした。
開封すると「選考の結果、残念ながら不合格となりました」と書かれていた。家のローンや親の介護費、子どもの教育費、生活費を4月からどうしたら良いのか。「目の前が真っ暗になった」と振り返る。男性は今回雇い止めに遭った250人のうちの1人だが、次の仕事を探すことに専念したいと撤回の求めは行っていない。
公募試験に落ちるとは思っていなかった。16年間で計11校の小中学校と高校で働き、2023年度も2校を任されていたからだ。
これまでは原則6年間は同じ学校で勤務できたため、後半の2年間で後任に引き継げるように意識して動くことができた。しかし今回、いきなり2カ月後の雇い止めを通告され、担当する子どもたちのケアもままならない。
男性は
バブル経済崩壊の影響で新卒就職が厳しかった
就職氷河期世代だ。子どもと関わる心理職に就きたくて正規職を探したが、非正規しか選択肢はなかった。
都の
スクールカウンセラーに就職し、更新を重ねることで結婚でき、子どもも生まれて「自分の人生を進めた」と感じた。「都に就職するまでは結婚や家族をもつことを考える余裕がなかった」。だが、今回文書1枚で雇用が切られた。
◆「非正規でも家族はいるし、生活して人生を歩んでいる」
労働組合「
心理職ユニオン)」(東京都豊島区)が実施した調査(回答数728人)では、補欠に当たる「補充任用」や不合格だった人の割合が40代は21.5%、50代は32.6%と20代以下の16.7%より高かった。調査結果を知った男性は「公正に審査して経験年数が長い人が若い世代より本当にダメだったのか」と選考基準に疑念を抱く。
男性は、若い世代のために雇用の機会をつくることは必要だと感じているが、「現役の40、50代を犠牲にしたことに憤りを感じる」。「非正規でも家族はいるし、生活して人生を歩んでいる。職員を大事にするなら、数カ月前に切ることはしない」と話した。
同じく
就職氷河期世代の女性(52)は試験の結果、補欠だった。「損な世代。不景気のあおりを受けて親の住宅ローンを支払った。人生設計も立てられず、他の世代より社会の支援を受けられていないと感じる」と話す。
1月下旬に雇い止めに遭ったが、3月25日になって繰り上げでの採用の通知を受け取った。23年度に担当した学校とは別の学校への配属だった。熟考の末、辞退した。「本当は、もう一度頑張りたかった。でも1月の首切りで尊厳を踏みにじられ、経済的にも精神的にもダメージが大きかった」と話す。
◆保護者も不安「パートナーを失うことに等しい」
経験を積み重ねた
スクールカウンセラーの雇い止めには保護者も不安を感じている。都内の会社員の女性(45)は、月に1回相談している
スクールカウンセラーが4月も勤務するかを学校から知らされていない。「子どもが卒業するまではせめて同じ人に相談できるようにしてほしい」と話す。
「担任の先生には『求めすぎかも』と思って言えないことでも、すくいとって解決方法を一緒に探ってくれる存在」と話す。月に1回の面談が女性の精神的な支えだ。
3月の面談で
スクールカウンセラーから「この学校で継続できるかわからないので、始業式後に学校に電話して予約をしてほしい」と言われた。新しい人に代わったら長男のことを一から説明すると思うと気が重い。「息子の成長を見守ってくれるパートナーを失うことに等しくて不安」と話した。
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9割が「職場にストレス」 心を支援するスクールカウンセラーに何が(2022年9月20日『毎日新聞』)
9割のスクールカウンセラーが「職場にストレス」――。東京都内の公立学校で働くスクールカウンセラーを対象に労働組合が実施した2021年のアンケート調査で、回答者の87%が「職場にストレスの要因がある」としていた。スクールカウンセラーは子供や保護者の抱える心の問題の支援を担う専門性の高い職業。ストレスの背景には、減らないサービス残業や雇用の不安定さがあるとみられ、関係者からは改善を求める声が上がっている。
スクールカウンセラーの配置は、1995年度から始まった。臨床心理士、公認心理師などの資格が必要とされる。非常勤で、1人のスクールカウンセラーが1〜3校を担当することが一般的だ。現在は都内の公立小、中、高校計2143校に配置されている。
調査を実施したのは、公務で働く人たちの労働組合「東京公務公共一般労働組合」の分会で、都内のスクールカウンセラーが集う「心理職ユニオン」。21年9~10月に都内の公立学校で働くスクールカウンセラー(調査時点で1514人)全員を対象に調査を実施し、702人の回答を得た。回収率は46%だった。
調査報告書によると、「職場においてストレスとなる要因があるか」との問いに87%が「ある」、12%は「ない」と回答した。選択式(複数回答可)で要因を尋ねると、時間外の無償労働(サービス残業)66%▽雇用の不安定さ61%▽社会保障がないこと56%▽教職員・管理職との関係50%――などが挙がった。
ストレス要因で最も多かった時間外労働については、全体の87%が「している」と回答した。このうち1回の勤務で残業している時間は「1時間以上2時間未満」が52%だったが、3%は「3時間以上」とした。
ストレス要因の2番目に挙がった「雇用の不安定さ」については、スクールカウンセラーらの雇用を1年ごとに更新する「会計年度任用職員制度」が影響しているとみられる。何年も続けている人が次年度の雇用を望んでも、実際に雇われるかどうかは年度末にならないと知ることができない運用となっている。意に反して雇用契約が更新されなくなる可能性について「不安に感じる」(69%)、「やや不安に感じる」(22%)の合計が全体の9割を超えた。
また、仕事を家に持ち帰っている人は全体の半数に上った。家に持ち帰る仕事の多くは、相談室便りの作成や研修会の資料作成などだという。勤務時間中に(法定の)休憩時間を「取れていない」とした人は、「取れている」と回答した人の約3倍に上った。
一方で仕事のやりがいについて尋ねたところ、「とても感じる」が52%、「やや感じる」が40%。全体の9割がやりがいを感じている計算だ。
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都教育委員会が任用するスクールカウンセラーは専門性の高さを踏まえて時給5500円となっている。勤務は1校当たり年間38日、1日当たりの勤務時間は7時間45分とされ、年間の賃金は1校につき…