「議員報酬30%アップ」は妥当? つくば市議会で可決された改正案に疑問の声 民間給与は20年で2.2%増なのに(2024年3月30日『東京新聞』)

 
 茨城県つくば市議会は22日、議員報酬を30%引き上げる条例改正案を賛成多数で可決した。30年ぶりの増額となる。他の自治体でもなり手不足を理由に報酬増の動きはあるが、住民の反発もあって簡単に進まず、つくば市とは様子が異なるようだ。民間でも大企業を中心に賃上げの動きがあるが、さすがに30%増とはいかない。この引き上げは妥当なのか。(宮畑譲)

◆なり手不足を給与で釣るの?そもそも不足?

 つくば市議会の定数は28人。前回20年の選挙では41人が立候補した。現段階でなり手不足とは言えない。
 「つくばエクスプレス(TX)が開通し、人口が増え続けている。議員への要求、要望も人口増とともに多様化し、果たす役割が大きくなっている。同規模の他都市との比較もある」。改正案を提出した市の担当者は東京新聞こちら特報部」の取材に、増額の背景をこう説明する。
 実施は4月からで、議長は現在の月額54万7000円から15万1000円(27.6%)増の69万8000円、副議長は48万円から14万6000円(30.4%)増の62万6000円、議員は44万7000円から13万7000円(30.6%)増の58万4000円となる。増額は1994年以来だ。
 
茨城県つくば市の議員報酬を30%引き上げる条例改正案

茨城県つくば市の議員報酬を30%引き上げる条例改正案

 2004年のつくば市の人口は約18万8000人だったが、3月1日現在で約25万6000人に。20年で約6万8000人増えた。これまでは20~30万人未満の人口の自治体の平均報酬を下回っていた。増額で4月からは平均を上回り、県内では水戸市に次いで2番目になる。
 改正案が可決された3月定例会の本会議では、増額を抑える修正案も提出されたが、反対多数で否決された。修正案を提出した「つくば・市民ネットワーク」の皆川幸枝議員は「これから議員になってもらう人のためにも増額は必要。ただ、賃金がそれほど上がらない社会情勢の中、議員だけが大幅に上がっているとみられかねない」と語る。
 少子高齢化の進む地方自治体では、議員のなり手不足を原因に報酬引き上げを望む声も少なくない。しかし、議員の報酬引き上げには反発も強く、簡単には進まないケースもある。

◆「増額自体は妥当でも30%は市民感覚とズレ」

 鳥取県倉吉市では3月定例会で、議員報酬を月額5000円引き上げる条例改正案が提出されたが、「現時点では住民の理解を得られないのではないか」と修正案が提出され、据え置かれた。鹿児島県姶良(あいら)市では、議員の間で月額10万9000円(36%)増とする案があるが、議員定数の削減とセットで議論されており、協議が続いているという。
 今春闘では、大手企業を中心に満額回答が相次ぐ。それでも賃上げ率はせいぜいが5%前後。これまでは民間の給与もずっと上がっていなかった。国税庁民間給与実態統計調査によると、22年の民間給与の平均は458万円で、20年前の448万円と比べて2.2%しか増えていない。
 元千葉県我孫子市長で中央学院大の福嶋浩彦教授(地方自治)は「30年間引き上げておらず、増額自体は理解できる。ただ、30%も一気に上がる職業なんて他にない。市民感覚とずれている。議員の特権とみられても仕方がない」と上げ幅の大きさを批判する。
 つくば市は同規模の他都市との比較で計算したというが、福嶋氏は「議員に求められる仕事は自治体の規模によってそれほど変わらない。むしろ、人口が少なければ住民との結び付きが強くなり、かえって忙しい場合もある」と言い、人口や財政規模に応じて報酬を決めることを疑問視する。
 報酬が低ければ、なり手が不足する懸念はあるが、福嶋氏は手厳しい。「もちろん妥当な報酬は必要だ。しかし、議員のうまみを高めるのではなく、地方政治を動かす仕事の魅力を高めることを考えてほしい」