投票所の減少、どう歯止めをかける? 地方で進めるオンライン化や遠隔チェックの実証実験 課題は?(2024年3月25日『東京新聞』)

 
 国政や地方選で投票所の数を減らしたり、投票終了時間を早める自治体が地方を中心に増えている。投票が適正に行われているか、投票所でチェックする立会人の確保が難しいのが主な理由だ。有権者の投票はどんどん不便になり、投票率の低下につながりかねない。茨城県つくば市などは立会人の負担を減らすため、遠隔カメラを使ってオンラインで参加する試みを進めている。(山下洋史)

◆群馬は9割で時間短縮、鳥取は18年間で約4割減

 昨年7月に行われた群馬県知事選。計882の投票所が設けられたが、5年前の前回知事選より33カ所減った。さらに、9割を超える投票所で投票時間を1~3時間繰り上げた。各投票所に2~5人を配置する立会人を集められなかったのが要因だ。
 鳥取県では2022年夏の参院選で設置された投票所の数は、04年の570から361に減った。歯止めをかけるため、平井伸治知事は2月1日の記者会見で、立会人の役割をオンライン化する意向を示した。
 
 投票所となる体育館は冷暖房設備が整っていないことが多い。例えば立会人に市役所などに集まってもらい、そこから遠隔カメラを使ってオンラインで投票所の様子をチェックできれば、身体的な負担軽減につながるからだ。

つくば市「ロボットでも支障なかった」

 同県は県内の市町村がオンライン化を推進する費用を補助するため、2024年度予算案に700万円を盛り込んだ。旧自治省(現総務省)の職員として、選挙事務を長年担当してきた平井知事は「立会人はリアルでなきゃいけないというのは法律の解釈論。民主主義や地方自治のためには、投票箱を守るほうが大切だ」と語る。
 茨城県つくば市では、遠隔カメラを使った立会人の実証実験を進めている。同市は投票所に行くことが難しい障害者や高齢者を対象に、投票箱を載せたワゴン車を自宅前まで巡回させる方針。ワゴン車の中にカメラを内蔵した小型ロボットを置き、立会人が車内でなく市役所でチェックしても不都合はないか実験を重ねている。
 
車内で模擬投票する人を見守るロボット(左端)。ロボットに内蔵したカメラを通して立会人が様子を見守る=茨城県つくば市提供

車内で模擬投票する人を見守るロボット(左端)。ロボットに内蔵したカメラを通して立会人が様子を見守る=茨城県つくば市提供

 市の担当者は「投票用紙にだれの名前を書いたか分からないようにロボットを配置している。立会人が遠隔で参加しても支障ないことが分かった」と話す。

◆ネットのない時代に制定された公選法

 地方の試みについて、選挙事務を所管する総務省は「(立会人について規定する)公選法は遠方での立会人を想定していない」とオンラインでの確認は法律の想定外と指摘。ただ「立会人の確保は選挙の重要な課題」と理解を示す。
 投票制度に詳しい東北大大学院の河村和徳准教授(政治学)は「自分たちの代表を選挙で選ぶことが民主主義の原則。それを実践するために、地方自治体は知恵を絞っている。公選法はネットのない時代に制定された。現代の実情に合うように柔軟に法解釈や法運用すべきだ」と話している。

 投票立会人 特別職の非常勤公務員。投票が公正に行われているか確認する。午前7時から投票締め切りまで投票所に待機するケースが大半で、1投票所につき2人以上5人以下が配置される。地元区長会などが推薦することが多い。投票の開始時は、一番初めに票を投じる有権者と投票箱の中が空であることを確認する。国政選挙での報酬は法律で規定されており、投票日は1万900円、期日前は1日につき9600円。