新潟県が2021年度に実施した阿賀野川の魚に含まれる水銀の調査で、新潟水俣病の原因をつくった旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)鹿瀬工場の排水口付近で捕まえたウグイ10匹のうち、3匹から国の暫定規制値をわずかに超えるメチル水銀などが検出されていたことが取材で判明した。県は、県版の環境白書に概要のみ記載し、詳細を公表していなかった。厚生労働省は、暫定規制値を超えた魚を食べても、少しなら健康を害する危険性はないとしている。【中津川甫】
水銀調査、どんな結果だった?
県は新潟水俣病が公式に確認された1965年から、阿賀野川の魚に含まれる水銀の調査を毎年続けている。毎日新聞は2017~21年度のウグイの水銀保有量の調査結果を入手。阿賀町の鹿瀬工場排水口付近で10~15匹を捕まえ、新潟水俣病の原因物質のメチル水銀と、総水銀の保有量を調べており、20年度までは国の暫定規制値(メチル水銀0・3ppm、総水銀0・4ppm、ppmは100万分の1)を超える個体はいなかった。
一方、21年度は10匹のうち3匹が暫定規制値をわずかに超え、メチル水銀が最も高い個体で0・39ppm、総水銀で0・5ppmだった。10匹の平均はメチル水銀で0・26ppm、総水銀で0・32ppmだった。
資料館に事実と異なる記載
県立の新潟水俣病資料館(新潟市)のパネルには「94(平成6)年以降は水銀の暫定的規制値の0・4ppmを超えるウグイは見られていません」と事実と異なる記載になっていた。県のホームページで公開されている小中学生向けのパンフレットにも同様の内容がある。県は今後、暫定規制値を超える個体があったことを伝える記載に修正するという。
また18年度には、鹿瀬工場排水口から約18キロ下流の佐取近くで捕獲したウグイ15匹のうち1匹から、暫定規制値をわずかに上回るメチル水銀が見つかっていたことも取材で判明した。
県によると、阿賀野川の魚の水銀保有量の調査結果は県版の環境白書「新潟県の環境」に概要を記載して公表していたが、調査したウグイの検体数、暫定規制値を超えた個体の数、具体的な保有メチル水銀量などは説明していなかった。暫定規制値を超えた3体が確認された21年度の調査結果については「平均値は下回りましたが、一部の検体では上回るものがありました」と概要のみ記していた。
具体的な調査結果を公表しない理由について、県生活衛生課は取材に「検体全体の平均では国の暫定規制値を下回っており、問題はない。阿賀野川の安全宣言と魚の食用抑制が解除された1978年当時と著しく状況が変わっているわけでない」と説明。また「メチル水銀は自然界にもある。原因は不明だが人工的汚染は解消されている」とし、原因企業の工場排水と暫定規制値を超えるウグイとの因果関係を否定した。県によると、ウグイは長寿で川底にいることが多いため水銀を多く摂取する傾向があるという。
ウグイの捕獲は毎年、地元の漁協に依頼。直近の22年度調査では1匹も暫定規制値を超えていなかったといい、県は「規制値超えのウグイが見つからない年も多く、他の河川と特段変わりはない」としている。