乳児(保育児)死亡検証報告書に関する社説・コラム(2024年3月27日)

乳児死亡検証報告書 子の命守る体制弱かった(2024年3月27日『琉球新報』-「社説」)

 

 那覇市内の認可外保育園で2022年、一時預かりされた生後3カ月の男児が心肺停止の状態で搬送され、死亡した事案について、市の諮問を受けた学識経験者らによる検証委員会は報告書をまとめ、認可外園と市の対応それぞれに問題点があったと認定した。

 報告書は事案の検証を基に保育施設、行政それぞれへの提言もまとめた。保育行政について多くの指摘を受けた市は体制や対応を直ちに見直す必要がある。他の市町村でも報告書が指摘する内容について検証してもらいたい。
 検証委の報告書は園が人手や資金の不足で、安全に保育ができる状況ではなかったことを浮き彫りにした。保育の方法や健康観察、職員間の連携など多岐にわたる部分で問題点が明らかになった。
 最大の問題点は園と市の双方で、子どもの命を守る体制が弱かったということであろう。不幸な出来事を繰り返してはならない。再発防止のため問題点を改めなければならない。
 今回の検証でも真相究明には至らなかった。施設長が体調不良などを理由に検証委の聞き取りに応じなかったためだ。死因も判明していない。母親は「何があったのかを知りたいとの望みは、今回の報告書を読んでも果たされなかった」とコメントした。
 市は立ち入り調査を踏まえ、園を指導していた。改善された項目もあったが、乳幼児突然死症候群(SIDS)予防のためのあおむけ寝の十分なチェック、乳幼児の睡眠中のきめ細かな観察が行われていなかった。指導の在り方にも問題があった。報告書は立ち入り調査結果について園への通知が遅かったこと、改善の確認も不十分だったとまとめた。検証委の立ち上げの遅さにも言及した。
 亡くなった乳児の保護者への市の対応も問題があった。「意見を真摯(しんし)に受け止め、適切に意思疎通を図ることが不足していた」とされた。市側も職員が足らず、業務負担が増えていたなど、考慮すべき事情があったことも分かった。ただ、子どもを亡くした保護者へのケアは最重視して行うべきであった。
 報告書は国への提言もまとめた。法令上の権限がないため十分な調査ができず、警察などからも情報が得られなかったことを踏まえ、保育施設での重大事案の検証に調査権限を持たせるよう法の見直しを求めた。保育水準を保つため、国が認可外の料金の基準を示す必要性にも触れた。再発防止の観点から法整備の議論を進める必要がある。
 認可園は増加傾向にあるが、県内ではまだまだ認可外園が待機児童の受け皿になっている。報告書は序文で「認可であろうと認可外であろうと、子どもの命や生きる権利が尊ばれる施設でなければならない」と記した。当然の指摘だ。本来は受けられる保育の質に差があってはならない。

 

保育死亡事故報告書 重い教訓 形にせねば(2024年3月27日『沖縄タイムス』-「社説」)

 元気ならもうすぐ2歳。親子でおしゃべりを楽しむこともできたはずなのに、その機会は永遠に訪れない。


 2022年7月、那覇市内の認可外保育施設で生後3カ月の男の子が死亡した事故で、市が設置した検証委員会が報告書をまとめた。

 必要な健康観察や安全確認を怠った園の責任、その園の安全管理の不備を見逃した行政の責任を厳しく指摘する。

 男児は一時預かりを利用しており、母親が迎えに行った際、異変に気付いた。心肺停止の状態で病院に運ばれ、その後、死亡が確認された。

 報告書によると、窒息事故や乳幼児突然死症候群のリスクが高まる「うつぶせ寝」にさせられ、睡眠時の呼吸確認も不十分だったという。

 職員の1人は早い段階で異変に気付くが、施設長は状況を確認せず、救急要請するなどの対応も取らなかった。園には事故予防マニュアルがなく、人員基準も満たされていなかった。

 保育環境も保育方法も保育所運営も、幼い命を預かる施設として、あまりにずさんである。  

 検証委は20回余にわたる会議で職員や利用者、遺族ら計27人から聞き取り調査を行った。しかし当日現場にいた施設長からは話を聞いていない。本人が調査に応じなかったためだ。

 「何があったのか知りたい」との遺族の切実な思いに誠実に向き合うことが、子どもの育ちを支える専門職として最低限の務めだが、果たされていない。

 結局、どのようにして亡くなったのかという真相解明の点からは不完全な報告書になってしまった。

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 報告書には、もう一方の当事者である那覇市監督責任についても厳しい言葉が並ぶ。

 市は事故前年、この園への立ち入り調査で、生命・身体に関連するものを含む12項目の改善指導点を確認しているが、長くたなざらしにされた。「設置者に対する出頭要請や特別立ち入り調査を行うべきだった」との苦言は当然である。

 今回の検証では新たに、この施設長が、以前に勤務していた園でも問題を起こし、市の指導を受けていたことが明らかになった。

 誰もが安全安心な保育を受けられるようにするには、課題や教訓を生かす何らかの仕組みづくりが求められる。

 それが保育の質の確保につながるのは言うまでもない。

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 再発防止に向けた提言には、保育施設に対し緊急時対応マニュアルの整備や心肺蘇生訓練の実施、寝かし付けはあおむけを原則とすることなどが盛り込まれる。

 どれも「当たり前」に聞こえるが、事故の情報を保育現場で共有し、教訓を血肉化する取り組みによってしか対策の実効性は高まらない。

 さらに市には事業停止を含む監督上の措置の強化、国には自治体に十分な調査権限を与えるよう求める。

 指導に従わない施設に対しては、毅然とした態度で臨む必要がある。二度と悲劇を起こさないために。