糖尿病歴見落とし、カテーテルで多数死亡… 異例の改善命令を受けた神戸徳洲会病院の闇(2024年3月17日)

院長は、再度の立ち入り検査があった15日までに遺族へ連絡し、「血糖値コントロールがうまくいかず、死亡につながった可能性がある」とこれまでの説明を翻したという。

また、院内の医療安全調査委員会で医療事故かどうか継続調査が必要と判断されたにもかかわらず、十分な検証を実施しないまま放置していた。

■行政指導中にも立て続けに問題発生

これだけにとどまらない。昨年10月、80代男性患者が気管支鏡検査の数時間後に死亡。院内から検証を求める意見が出たのに原因究明しない▽今年1月、90代男性が血圧を上昇させる薬剤の追加投与が間に合わずに死亡▽昨年9月と10月に死亡した2人の患者について主治医がカルテの記載を怠る-といずれも行政指導中に問題が立て続けに起きた。

市はこうした経緯を踏まえ、ガバナンスが機能していないと判断。2月20日、医療法人徳洲会に対し、医療法に基づく改善命令を出した。改善命令は、医療事故を防ぐための行政上の措置で、病院に改善措置計画書の提出を求め、従わない場合は業務停止を命じることができる。改善命令は全国的にも異例で、兵庫県内では初めてという。

改善命令の骨子は、患者の安全を最優先する医療安全管理体制の実現のため必要な措置を抜本的に講じる▽医療事故などが起きた場合の対策を実施する▽カルテの未記載を防止する対策を講じる-など。

市の担当者は20日の記者会見で、「行政指導中にもかかわらず同じことを繰り返している」と病院の安全管理体制を批判。糖尿病患者の死亡例について「隠そうとしたと捉えられても仕方がないのではないか」と厳しく指弾した。

■「怠慢というより忙しすぎる」現場の実態解明が急務

病院は2月以降、一時的に救急患者の受け入れを停止。今月5日には、医療法人徳洲会が改善命令に対する改善措置計画を提出した。病院の担当者は「市の指摘通り、職種間の連携不足や、カルテの未記載などのコンプライアンス上の問題がある。真摯(しんし)に受け止めて適切に対処していきたい」と釈明した。

病院の調査に関わった市の幹部は、産経新聞の取材に対し、問題の背景について「医師一人一人が受け持っている患者がかなり多い。怠慢というよりは、全員が忙しすぎて、組織の力が機能していない」との見解を示している。

患者の安全に詳しい名古屋大医学部の長尾能雅教授は「短期間に重大な問題が多発する事例に共通するのは、内部で問題視された事案に対し、上層部による適切な判断がなされていないことだ。対処が後手に回って、患者の安全を基軸にしたガバナンスが機能していないのではないか」と指摘する。

その上で「今回のような事案が起きた場合は、抜本的な改革が必要だ。患者安全の専門家をリーダーとする外部の有識者らで構成する第三者のチームが客観的な目で調査しなければならない」とし、「現場や幹部へのヒアリングを行い、ガバナンスの実態を丁寧にひもといて問題点を浮き彫りにする必要がある」と話した。(吉国在、喜田あゆみ)