水原元通訳を銀行詐欺容疑で訴追 “24億円以上を不正に送金”(2024年4月12日『NHKニュース』)

アメリカの捜査当局は大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の口座から1600万ドル(24億4800万円)以上を不正に送金したとして、専属通訳を務めていた水原一平容疑者を銀行詐欺の疑いで訴追したと明らかにしました。また、捜査当局は「大谷選手は被害者だと考えている」と述べました。

水原容疑者は、日本時間の13日にもロサンゼルスの裁判所に出向く見通しです。

違法賭博に関わっていたとされる水原容疑者について合同で捜査にあたっていたアメリカの連邦捜査機関で日本の国税庁にあたるIRS=内国歳入庁と、国土安全保障省、それに司法省がアメリカ西部カリフォルニア州ロサンゼルスで現地時間の11日午後、日本時間の12日午前2時半すぎから記者会見を開きました。

“1600万ドル(24億4800万円)以上を不正に送金” 

この中で捜査当局は、水原元通訳が2021年11月からことし1月にかけて大谷選手の口座から本人に無断で1600万ドル以上、日本円で24億4800万円以上を不正に送金したとして、銀行詐欺の疑いで訴追したと明らかにしました。

不正な送金は違法賭博でつくった多額の借金を返済するためだとしています。

捜査当局によりますと水原元通訳は2021年9月に違法なスポーツ賭博を始め、数か月後には多額の損失が出始めたということで「このころに大谷選手の銀行口座の連絡先が元通訳の電話番号と関連するメールアドレスにひも付くように変更されたとみられる」ということです。

さらに銀行に電話をかけ、大谷選手だと偽って大谷選手の銀行口座から送金しようとしたこともあったとしています。

また、捜査当局は先週、大谷選手から話を聞き、携帯電話の提供も受けたということです。そして、元通訳の違法賭博や借金の支払いについて、大谷選手が認識、もしくは関与していたことを示す証拠はないと判断したとして「大谷選手は被害者だと強調したい」と述べました。

捜査当局によりますと水原容疑者は、日本時間の13日にもロサンゼルスにある裁判所に出向く見通しです。

検察官「どんなに洗練された人でも被害にあう」

会見を行った検察官は会見後に取材に応じ、「大谷選手は1600万ドルを超える巨額の詐欺の被害者だった。彼がスポーツ賭博を許可した形跡も、スポーツ賭博について知っていた形跡も、彼が個人口座からの送金を許可した形跡も見つからなかった」とこの問題について大谷選手の関与はないと考えられることを改めて強調しました。

そして「彼の継続的な協力に感謝している。今後も引き続きの協力を期待したい」とした上で「今回明らかになったのは、どんなにお金を持っていて、どんなに洗練された人でも被害にあう可能性があるということだ」と指摘しました。

また、合同で捜査を行っている国土安全保障省の担当者は「大谷選手の協力は、この捜査がこれほど早く終わった大きな要因だ」とと話しました。

【会見のポイント】捜査当局が強調「大谷選手は被害者」 

(ロサンゼルスで取材 森健一記者が解説)

Q. 今回の会見のポイントは?
会見、そしてその後の個別の取材で捜査当局が強調したのは、「大谷選手は被害者だ」という点。会見で当局は、水原元通訳が、大谷選手の口座から1600万ドルにも及ぶ多額の金をだまし取るために、大谷選手から信頼されている立場を利用したと説明した。

水原元通訳は大谷選手とともにアメリカに来て以降、大谷選手を支える会計士や財務アドバイザーなど他のスタッフが大谷選手の口座にアクセスするのを拒んでいたという。

当局は大谷選手と水原元通訳の1000件以上に及ぶ通信記録や関係者への聞き取りなどを進めた結果、水原元通訳の違法賭博や借金の支払いについて、大谷選手が関わっていたことを示す証拠はないと判断したとしている。

Q. 今後の焦点は?
水原元通訳は、韓国でのドジャースの開幕戦後に解雇されて以降、公に姿を現していないが、ついさきほど入ってきた情報で現地時間のあす午後に裁判所に姿を見せる見通し。ニューヨーク・タイムズはこれまでに水原元通訳が罪を認める方向で交渉を進めていると伝えている。

大谷選手の「相棒」とも言われ、関係の深かった水原元通訳がなぜ大谷選手を裏切る行為に手を染めたのか、今後、そのいきさつや心情を語ることがあるのかが大きな注目点だ。また、この問題について調査を行っている大リーグ機構、そして何より大谷選手自身が、今回の訴追を受けて今後どのように説明するのかも焦点になってくる。

水原元通訳をめぐる一連の問題 時系列まとめ

※時間はすべて日本時間
【3月21日】
アメリカのロサンゼルス・タイムズやESPNなど複数のメディアが水原氏の違法賭博問題を報道。ドジャースも水原氏を解雇したことを認める。連邦捜査の対象となっている違法な「ブックメーカー」と呼ばれる賭け屋で賭けるために水原氏が大谷選手の資金を「大規模に盗んだ」とし、大谷選手の口座からこのブックメーカーに対して450万ドル、日本円でおよそ6億8000万円が送金されていたと伝えた。

韓国・ソウルでの開幕戦を終えた翌日の出来事に衝撃が走った。大谷選手は21日の開幕第2戦に出場したあとチームとともにロサンゼルスに戻った。

水原氏がアメリカメディアの取材に対して当初「大谷選手に借金の相談をし、二度とやらないよう私を助けてくれた」と話したことも注目された。水原氏はこの発言をすぐに撤回したと伝えられたが、大谷選手が水原氏の借金返済に関与したかどうかが大きな焦点になった。

【3月22日】
ESPNは、大谷選手がこの問題を初めて把握したのは「20日の開幕戦の後だった」と報道。水原氏が20日の試合後のクラブハウスでチームメートに対しみずからのスキャンダルについて話し、違法賭博とは知らなかったことや自身がギャンブル依存症だと説明したと伝えた。
大谷選手ものちに開いた会見で「この時初めて事態を把握した」と明かした。大リーグ機構もこの日、正式な調査開始を発表した。

【3月25日】
大谷選手が報道陣に対して「トゥモロー」と発言し、翌日に取材に応じる意向を表明。

【3月26日】
大谷選手がドジャースタジアムで会見。当日、球団から大谷選手は声明を発表するのみで質疑応答はしない旨が明かされた。また、写真や映像の撮影は球団のみで各社には許可されず、異例の対応となった。大谷選手は会見で以下のように説明し、みずからの関与を全面的に否定した上で、精神的な影響についても率直に語った。

「信頼していた方の過ち、悲しいしショック」
「僕自身が何かに賭けたり、僕の口座から送金を依頼したことは全くない」
「水原氏が僕の口座からお金を盗んで、なおかつうそをついていた」
「弁護士が、窃盗と詐欺で警察当局に引き渡すと報告した」
「正直ショックということばが正しいとは思わない。それ以上の感覚で1週間くらいを過ごしてきた。気持ちを切り替えるのは難しいが、シーズンに向けて精いっぱいこれがお話できるすべて」

会見後、大谷選手はすぐにグラウンドに出てキャッチボールを行った。去年9月の右ひじ手術後、報道陣の前でボールを投げるのはこれが初めてだった。

【4月4日】
本拠地で行われたジャイアンツ戦でドジャース移籍後初となるホームラン。開幕から数えると自己最長となる41打席目でのシーズン1号のホームランに苦しさをのぞかせながらも試合後には「メンタルを言い訳にはしたくない。そこも含めて技術だと思っている」と大谷選手らしいことばで語った。

【4月7日】
大リーグ機構のマンフレッドコミッショナーアメリカのテレビ番組に出演。大谷選手の会見を「信頼できる」とした上で、調査については「現在進めているが、長くなるとは思わない。比較的短い期間で終わるだろう」と見解を示した。

【4月9日】
大谷選手が報道陣の取材に対応。水原氏が不在の影響について聞かれ「野球をやるときにそのことを考えてはいない。やってきた技術を信じてグラウンドの中で100%表現するのが自分の仕事」と答えた。
一方で妻や愛犬のデコピンが支えとなったかと聞かれると「ここ数週間いろいろあったので、隣に誰かいるかどうかはだいぶ違うと思う。そういう意味ではすごくいてくれてよかったと思ったことはあった」と家族へ感謝の思いも述べた。

【4月12日】
アメリカの捜査当局は水原氏が大谷選手の口座から本人に無断で1600万ドル以上を不正に送金したとして銀行詐欺の疑いで訴追したと明らかにし、「大谷選手は被害者だと考えている」と述べた。

水原一平氏とは

水原一平氏は、39歳。北海道出身で幼少期にロサンゼルスに移住しました。

2012年からプロ野球の日本ハムで外国人選手の通訳を務め、この年のオフに日本ハム大谷翔平選手が入団しました。

2017年のオフに大谷選手が大リーグのエンジェルスと契約を結んだ後は、水原氏もエンジェルスに移籍して大谷選手の専属通訳となりました。大谷選手がエンジェルスからドジャースに移籍したのにあわせて水原氏もドジャースに移籍しました。

水原氏は大谷選手の通訳業務はもちろん、球場の送り迎えやキャッチボールの相手を務めるなど常に大谷選手と行動をともにしていて、大谷選手が初めてシーズンMVP=最優秀選手を受賞した2021年11月には、苦難を乗り越えた時の支えになった人として「お世話になったのは一平さん」と名前を挙げるなど大谷選手からの信頼も厚く、家族同然とも言える関係を築いていました。

水原氏と大谷選手の関係は

水原氏は大リーグで大谷選手を7年にわたり通訳という立場を超えて公私にわたり支え、シーズン中だけでなくオフの自主トレーニングの期間中も常に行動をともにしてきました。

2021年の12月に大リーグ機構と選手会が労使協定の交渉をめぐって衝突し、すべての活動が止まる「ロックアウト」と呼ばれる状況になった際には、期間中、球団職員と選手の接触や連絡が一切禁止になったため、水原氏は一時的に当時の所属先だったエンジェルスを3か月ほど辞めて、大谷選手のサポートを続けました。

大谷選手からの信頼が厚かったこともあり去年のWBCワールド・ベースボール・クラシックでは日本代表のスタッフとしてチームに加わりました。

去年まで所属していたエンジェルスから球団独自の賞として「最優秀通訳賞」を贈られたこともあるなど、大谷選手が大リーグで実績を残しスター選手としての地位を確固たるものとするのにあわせて水原氏の存在感も大きなものとなっていきました。

しかし、今回明らかになったスキャンダルによってその大谷選手との間で築いてきた信頼関係を失うことになりました。