勾留中の医療 早期の保釈を認めねば(2024年3月25日『東京新聞』-「社説」)

 
 「大川原化工機」の冤罪(えんざい)事件を巡り、東京地裁は「被告」のまま死亡した同社元顧問の遺族への賠償を認めなかった。元顧問は勾留中に胃がんと判明したが、保釈が認められなかった。刑事施設での医療に第三者監査を入れるなど仕組みを抜本的に改めるべきだ。
 元顧問は社長らとともに2020年3月、噴霧乾燥機を不正輸出したとの外為法違反容疑で逮捕された。勾留中に体調を崩し、外部の病院で診察を受けたいと保釈を求めたが、認められなかった。
 同年10月、拘置所での内視鏡検査で悪性腫瘍と判明。外部の病院での治療を求めたが、認められたのは8時間の勾留停止だけ。大学病院での診察で「進行胃がん」と診断されたが、その直後の保釈請求も認められなかった。
 勾留の執行停止は同年11月。すでに肝臓にがんが転移する末期状態で、翌21年2月に「被告」のまま死亡した。保釈請求は8回にも上っていた。
 この事件は同年7月、社長らの起訴が異例の取り消しとなり、冤罪だったことが判明。こうした経緯から元顧問の遺族が「拘置所には適切に治療し、早期に入院させる義務を怠る違反があった」などとして国を訴えていた。
 東京地裁は「20年10月1日時点で外部病院と調整を始めている」などとして、拘置所の医師に「治療義務などの違反が認められない」と遺族の訴えを退けた。
 しかし、勾留中でも病気なら一般人と同等の医療が受けられるべきだ。拘置所では人的・物的設備に限りがある。「進行がん」と診断されながら裁判所が保釈を認めないのは常識から外れている。
 否認すれば長期の身柄拘束が続く「人質司法」により、命が軽んじられたとしたら許し難い。
 拘置所など刑事施設での医療を巡り、かつて日弁連は第三者による検証制度や刑事施設での医療を法務省から厚生労働省に移管するなどの抜本的改革を求めたが、いまだに実現していない。
 すでにフランスや英国では刑事施設での医療の質を向上させるため、監督権限を保健省などに移管したという。日本も見習うべきであり、少なくとも第三者の監査が働く仕組みの導入は不可避だ。
 ましてや勾留中は「無罪推定」の原則が働く。早期の保釈と適切な医療の保障は、当然の権利と考える。