「本質以外のものは全部カットしちゃう…(2024年3月25日『毎日新聞』-「余録」)

「漣」重要文化財 1932(昭和7)年 大阪中之島美術館蔵 

「漣」重要文化財 1932(昭和7)年 大阪中之島美術館蔵

近代日本画の巨匠、福田平八郎
近代日本画の巨匠、福田平八郎

 「本質以外のものは全部カットしちゃう」。地球温暖化現象の解明でノーベル賞を受賞した真鍋淑郎さん(92)の言葉である。一口に温暖化というが実にやっかいな現象らしい

▲気温は複雑に振る舞う大気や海の動きに左右され、すすや火山噴火などの影響も受ける。真鍋さんは1960年代、地球全体の大気を地表から上空まで続く一本の柱とみなす「大胆な単純化」で解きほぐした

▲画家にも自然は手ごわい相手のようだ。「単純に見えて複雑」「同一であって無限の変化」。近代日本画の巨匠で文化勲章を受章した福田平八郎は、好んで題材にした水の特徴をこう評した。徹底した観察から対象が持つ造形の妙を抽出し、単純化を試みた

▲今月で没後50年を迎え、大阪中之島美術館で回顧展が開催されている。とりわけ肌に感じない風でも様子が変わる湖面に触発されて描いた「漣(さざなみ)」は胸を打つ

▲本質にこだわる2人の成長に重要だったのは異質との出合いだ。真鍋さんは博士号取得後、個性を重んじる米国に渡った。因習の強い京都画壇しか知らなかった福田は、東京を拠点にする洋画家や評論家らのグループ「六潮会」に加わった。参加していなければ「つい自分の狭い世界の中で、ひとりよがりな生活を続けてしまったかもしれない」と述懐した

▲今、全国で卒業式が挙行されている。4月からの新天地には苦難が待ち受け、失敗することもあるだろう。福田は、こう残す。「其(その)失敗が其後で、何かをもたらしてくれる種になるに相違ない」