ギャンブル依存症克服の鍵(2024年3月24日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 パチンコ好きの友人は、財布の中に子どもの手書きのメモ紙をしのばせている。「引き際が肝心」という趣旨の一文が書かれていたと記憶する

◆パチンコは勝てる時ばかりではない。むしろ射幸性の高い機種が増え、勝ち負けの差が極端に大きくなったと感じる。「ここまで突っ込んだ分を考え、諦められなくなる」心理を「コンコルド効果」という。投資の世界で使われるが、ギャンブルにも通底する。友人が大切にするそのメモ紙は泥沼にはまり、傷口を広げないためのお守りのようなものという

◆理性が欲に勝つうちはいい。だが、「依存症」になると厄介だ。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平さんが、違法賭博に関与した疑いで球団を解雇された。水原さんは自らの「ギャンブル依存症」を明らかにした

◆大谷選手を公私両面で支え、誠実な仕事ぶりで好感を持てた水原さんの意外な一面。ただ、ギャンブル依存症は誰もがなり得る病気だ。外見からは分かりにくく、「隠せる中毒」ともいわれる。さらに、この依存症は多重債務を生みやすい

◆詳しいことは分からないものの、水原さんの告白が事実なら、友人が持つメモ紙のように、自分を思ってくれる人の存在を再確認することが依存症克服と再起への第一歩かもしれない。人生に大勝ちは少ない。(義)