陸自ヘリ事故調査 三つの可能性、対策徹底を(2024年3月23日『佐賀新聞』-「論説」)

 沖縄・宮古島近海で昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリコプターが墜落し10人が死亡した事故で、陸自は「2基あるエンジンの出力が相次いで低下した」とする調査結果を公表した。

 このうち墜落に直接つながった1基の異常の原因は絞り込めず、三つの可能性の併記にとどまった。搭乗員全員が亡くなっており、調査に限界があることは理解できるが、最終的な原因を特定できなかったことには、やはり不安が残る。

 陸自は時期未定ながら、再発防止策を講じた上での同型機の飛行再開を決めた。三つの可能性には、ハード面の不具合と人為ミスが混在している。すべての可能性を完全に断ち切る防止策を徹底しなければならない。

 10人が死亡した事故は、陸自機として過去最悪だった。もしも陸上で発生していたら大惨事につながった。二度と繰り返してはならない。

 調査には1年近くを要し、フライトレコーダー(飛行記録装置)の解析などが行われた。

 それによると、事故機は昨年4月6日午後3時46分に宮古島を離陸。約8分後には右エンジンの出力が低下し、その37秒後には左エンジンの出力も低下し始めた。この時点で約310メートルあった高度は49秒後に約95メートルまで急降下し、4秒後に墜落したと推定された。

 右エンジンでは、燃料供給系統の異常による「ロールバック」という極めてまれな現象が発生したと特定したが、このヘリはエンジン1基でも飛行可能で、墜落に直結した左エンジンの出力低下の原因が焦点となった。

 最終的に(1)エンジンを制御する電気系統の異常(2)操縦席のレバーとエンジンをつなぐケーブルの不具合(3)操縦士による出力調整レバーの誤操作―の三つの可能性に絞り込んだが、特定する証拠は得られなかった。

 部外の専門家も加わり、関係企業や米軍の意見も聞いたといい、調査を尽くした上での併記ならやむを得まい。問題は再発防止策だ。

 陸自はエンジン関連の点検内容を細かくし、回数も増やした上で機能確認も実施するほか、エンジンが2基とも出力低下した際に、安全に降下するための対処要領をマニュアルに明記し、訓練も徹底するとしている。

 これで、三つの可能性をつぶすのに十分なのか。今後も対策の実施結果を受けて繰り返し検討を加え、必要に応じて強化してもらいたい。

 右エンジンで起きたロールバックについても、予防のための詳細な点検・検査などを打ち出しており、徹底してほしい。

 昨年11月に鹿児島・屋久島沖で墜落し、8人が死亡した米空軍の輸送機オスプレイの事故を受け、米軍が全世界で停止していた飛行も3月に再開された。陸自オスプレイも暫定配備されている木更津駐屯地(千葉県)周辺での飛行を始めている。

 米側は事故原因となった部品の不具合は特定したが、さらに分析を継続中。米側から説明を受けた日本政府は「調査継続」を理由に詳細を明らかにせず、配備地の沖縄県、東京都などでは反発や不満が高まっている。

 陸自はUH60JAヘリの飛行再開に当たり、同じ轍(てつ)を踏んではならない。関係自治体や住民の納得と理解を得るのが最優先だ。そうでなければ、南西諸島方面の防衛力強化など実現できない。(共同通信・出口修)