夫婦別姓訴訟に関する社説・(2024年3月13日)

提訴のため、札幌地裁に向かう原告ら=2024年3月8日午前

 

夫婦別姓訴訟 怠慢はもう許されない(2024年3月13日『山陰中央新報・』-「論説」)


 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は個人の尊重を定めた憲法に違反すると、北海道や東京都、長野県などの男女12人が国に別姓で婚姻できる地位の確認や損害賠償を求めて東京、札幌両地裁に提訴した。「婚姻するため一方が氏を変えるか、双方が氏を維持するため婚姻を諦めるかの過酷な二者択一を迫る」と現行制度を批判する。

 女性の社会進出を背景に法相の諮問機関・法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓制度の導入に向け改正要綱を答申。政府は改正案を準備した。だが自民党保守派が「伝統的家族観」を盾に反対し、国会提出に至っていない。岸田文雄首相も保守派に配慮してか「家族の根幹に関わる」と慎重な姿勢を崩さない。

 夫婦のほとんどは夫の姓を名乗り、女性は結婚に伴う改姓によって旧姓とともに築き上げてきた信用や評価の維持が難しくなったり、アイデンティティーの喪失感を味わったりする。晩婚化で働く女性が増え、経団連は今年1月、夫婦別姓の導入を政府に提言。2月には十倉雅和会長が「一丁目一番地として、やってほしい」と強調した。

 行政機関や企業で旧姓の通称使用が広がりつつあるとはいえ、根本的な解決にはならない。夫婦別姓を求める訴えはことごとく退けられてきたが、それでも声を上げ続ける人がいることを政府や国会は直視すべきだ。怠慢はもう許されない。

 今回の原告は、法律婚の夫婦1組と事実婚の男女5組。「夫婦同姓は実質的不平等を慣習として固定化し、個人の尊重や婚姻の自由を定める憲法に違反する」とし、旧姓の通称使用について「夫婦同姓制度に不合理性があることを認め、証明している」と主張する。

 最高裁大法廷は2015年の判決で、夫婦同姓を定める民法の規定について「合憲」と判断。改姓による女性の不利益を認めながらも「通称使用が広まることで不利益は緩和される」とした。その上で「制度の在り方は国会で論じられ、判断されるべきだ」と法整備を促した。裁判官15人のうち、女性3人を含む5人は「多くの女性が姓変更の不利益を避けるため事実婚を選び、結婚の自由を制約している」などと指摘。「違憲」とする反対意見を述べた。

 5年後、政府は女性政策の指針となる第5次男女共同参画基本計画に選択的夫婦別姓制度の導入を巡り積極的な姿勢を示す記述を盛り込もうとしたが、自民の保守系議員が「導入ありき」「家族が壊れる」と反発。最後は「選択的夫婦別姓」の文言そのものが基本計画から消えてしまった。

 大法廷は21年に家事審判の決定で再び合憲判断を示し、制度導入の議論は停滞したままになっている。しかし別姓を必要とする人はいる。通称使用に法的な裏付けはなく、気休め程度にしかならない。立法不作為のそしりは免れないだろう。

 保守派が伝統的家族観を声高に叫ぶ中、政府や国会は合憲判断の上にあぐらをかき、法制審の改正要綱が30年近く、たなざらしにされているのは異常と言うほかない。

 8日の国際女性デーを前に英経済誌が主要29カ国を対象に「女性の働きやすさ」を評価した23年のランキングで、日本は下から3番目の27位。その一因として、女性の活躍をさまざまな形で妨げている夫婦同姓があるのは否定しようがない。

 

夫婦別姓訴訟(2024年3月13日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆政府や国会は直視すべきだ◆

 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は個人の尊重などを定めた憲法に違反すると、北海道や東京都、長野県などの男女12人が国に別姓で婚姻できる地位の確認や損害賠償を求め東京、札幌両地裁に提訴した。

 「婚姻するため一方が氏を変えるか、双方が氏を維持するため婚姻を諦めるかの過酷な二者択一を迫る」と現行制度を批判する。

 女性の社会進出を背景に法相の諮問機関・法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓制度の導入に向け改正要綱を答申。政府は改正案を準備した。だが自民党保守派が「伝統的家族観」を盾に反対し、国会提出に至っていない。

 旧姓の通称使用が広がりつつあるが、根本的な解決にはならない。夫婦別姓を求める訴えは退けられてきたが、それでも声を上げ続ける人がいることを政府や国会は直視すべきだ。

 今回の原告は、法律婚の夫婦1組と事実婚の男女5組。「夫婦同姓は実質的不平等を慣習として固定化し、個人の尊重や婚姻の自由を定める憲法に違反する」とし、旧姓の通称使用について「夫婦同姓制度に不合理性があることを認め、証明している」と主張する。

 最高裁大法廷は2015年の判決で、夫婦同姓を定める民法の規定について「合憲」と判断。改姓による女性の不利益を認めながらも「通称使用が広まることで不利益は緩和される」とした。その上で「制度の在り方は国会で論じられ、判断されるべきだ」と法整備を促した。

 裁判官15人のうち、女性3人を含む5人は「多くの女性が姓変更の不利益を避けるため事実婚を選び、結婚の自由を制約している」などと指摘。「違憲」とする反対意見を述べた。

 5年後、政府は第5次男女共同参画基本計画に選択的夫婦別姓制度の導入を巡り積極的な姿勢を示す記述を盛り込もうとしたが、自民の保守系議員が「導入ありき」「家族が壊れる」と反発。最後は「選択的夫婦別姓」の文言そのものが基本計画から消えた。

 大法廷は21年に家事審判の決定で再び合憲判断を示し、制度導入の議論は停滞したままになっている。保守派が伝統的家族観を声高に叫ぶ中、政府や国会は合憲判断の上にあぐらをかき、法制審の改正要綱が30年近く、たなざらしにされているのは異常と言うほかない。

 8日の国際女性デーを前に英経済誌が主要29カ国を対象に「女性の働きやすさ」を評価した23年のランキングで、日本は下から3番目の27位。その一因として、女性の活躍をさまざまな形で妨げている夫婦同姓があるのは否定しようがない。