ロシア語通訳で作家の故・米原万里さんは父親の仕事の都合で小…(2024年3月22日『東京新聞』-「筆洗」)

 ロシア語通訳で作家の故・米原万里さんは父親の仕事の都合で小学生の時、旧チェコスロバキアプラハに移り、ロシア語で授業をする現地の学校に通った▼当初、言葉は理解できず、何も分からない授業に何時間も出席することは耐えがたい苦痛だった。最も悔しく寂しかったことは、みんなが笑っている時に一緒に笑えなかったことだったという

▼人間にとって、みんなと一緒に笑えて、一緒に感動できることは喜び。通訳として、いつもそれを目指していると講演で語っていた

▼米大リーグの日本人スター選手が、異国のチームメートやファンらとともに笑いあえるよう仕事をしてきたはずの人の不祥事が昨日、伝えられた。今季からドジャースでプレーする大谷翔平選手の水原一平通訳が球団に解雇された

▼違法な賭博への関与が伝えられている。詳細は不明だが、賭け事のため、大谷選手の多額の金品を盗んだという米報道もあるという。大谷選手が属していた日本ハムで通訳をし、ともに渡米してエンゼルス時代からいつもそばで支えた。人は時に過ちを犯すものではあるが、信頼していた盟友に裏切られた形の大谷選手の心中を思う

米原さんは「人間は常にコミュニケーションを求めてやまない動物」とも語った。分かりたい、分かってほしいと願うのはそれが簡単でないゆえか。一緒に笑える時の貴さが身に染みる。