「スポーツで賭け」日本でも全面解禁探る動き 大谷翔平通訳解雇(2024年3月21日『毎日新聞』)

米大リーグの開幕戦を前に開かれた記者会見を終え、会場を後にするドジャースの大谷翔平(中央)と通訳の水原一平氏(左端)=ソウルで2024年3月16日、AP
米大リーグの開幕戦を前に開かれた記者会見を終え、会場を後にするドジャース大谷翔平(中央)と通訳の水原一平氏(左端)=ソウルで2024年3月16日、AP

 米大リーグ・ドジャース大谷翔平選手(29)の通訳を務めてきた水原一平氏(39)の違法賭博疑惑に関する報道でスポーツ賭博に注目が集まっている。日本国内ではスポーツの「賭け」は極めて限られた範囲で認められてきたが、近年は全面解禁に向けた動きもある。識者はリスクを踏まえた議論の重要性を指摘している。

 日本の刑法は賭博も、賭博場を開くことも禁じており、公営の競馬や競艇、宝くじなどに限られる。その中で、2001年3月に販売が始まったスポーツ振興くじtoto)は1998年にできた「スポーツ振興投票法」に基づいて不正防止を徹底し、収益金をスポーツ振興助成金とすることで例外的に認められた。当初対象はサッカーJリーグのみで、22年からはバスケットボールBリーグが加わった。

海外では「プレー」が対象

 八百長ギャンブル依存症を招きかねないスポーツに関する賭けは限定的に運用されてきた。しかし、近年、新たなスポーツの資金源を得るため、運用を拡大する検討が始まった。

 経済産業省は21年6月に識者を交えた「地域×スポーツクラブ産業研究会」の提言をまとめ、地域スポーツの資金源の例に「スポーツ賭博」を挙げた。時をほぼ同じくして自民党のスポーツ立国調査会も東京オリンピックパラリンピックの開催後を見据えた新たな経済の起爆剤として「スポーツくじの充実に向けた取り組みを進めていくべきだ」とした。

 立国調査会はスポーツ賭博が産業化している欧米の例を引き合いに「英国では(中略)スポーツベッティング(賭け)で得られる税収は年間900億円にも及ぶという。我が国でもスポーツベッティング市場が産業に与えているインパクト、社会的背景などについて理解を深め、その活用の可能性について検討することも有益」とする提言をまとめた。

 スポーツ振興くじtotoなどは試合の勝敗や得点数が対象だが、海外で認められているスポーツベッティングは試合中に起こる可能性のあるほとんどのプレーが賭けられる。例えば、サッカーならば最初にゴールを決める選手は誰か、試合中のイエローカードの数は何枚かなどを予想し、試合終了を待たずに成立する。

 現在、立国調査会などで法律改正も含めた検討を行っている。

「リスクの議論、不十分」

 日本プロ野球選手会の顧問弁護士でスポーツベッティングに詳しい早稲田大の松本泰介教授(スポーツ法)は「現状、国内では市場効果を期待する声ばかり取り上げられている。ギャンブル依存症だけでなく、規制のかけ方や(賭けの)対象になる選手への中傷などのリスクに対する議論が十分ではない」と指摘する。【岩壁峻】