出会いの春(2024年3月20日『山陰中央新報』-「明窓」)

韓国代表戦のベンチで試合を見つめるドジャース大谷翔平選手。左はロバーツ監督=18日、ソウル(共同)


 <二度とない人生だから 一輪の花にも 無限の愛を そそいでゆこう>。仏教詩人と呼ばれた坂村真民(しんみん)(1909~2006年)の詩。中学時代、卒業式で来賓の一人からはなむけの言葉として贈られた。当時、生き方を深く考えるようなことはなかったが、詩の中で何度も繰り返される「二度とない人生」のフレーズが強く印象に残った

▼言葉にしないまでも、全力で駆け、あらゆる局面でベストを尽くす人の姿が心に響く。今なら米大リーグ・ドジャース大谷翔平選手だろう。きょう、ソウルでパドレスとの開幕戦に臨む。打者に専念する今季、どんな活躍を見せるか。期待が高まる

▼<念ずれば花ひらく>も坂村の詩の中に出てくる一節。単に祈るということではなく、「一生懸命に努力を重ねれば、道は開けていく」という意味だそうだ。選手、監督としてプロ野球界をけん引した故・野村克也さんが大切にしていた言葉だ

▼春は別れと出会いの季節。卒業、入学、転勤、入社などで環境が変わる人も多い。新たな道を歩み始める人は、期待と不安を胸に準備に追われていることだろう

▼振り返れば進学や就職で環境が大きく変わる時、不安の方が大きかった。「周りの人も同じだろう」。そう思えば少し気が楽になり、取っかかりの声をかけやすい。声をかければ、二度とない人生の中でかけがえのない人、大切な人に巡り会えるかもしれない。(彦)