マイナス金利解除で住宅ローンどうなる?「モゲチェック」塩澤さんに聞く 変動、固定はどちらが有利?(2024年3月19日『東京新聞』)

 日銀がマイナス金利の解除を決めたことで、住宅ローン金利が今後どうなるのか気になります。今借りている人の金利は上がるのか。これから住宅を買おうとする人はどんな対応がベストか。住宅ローンアナリスト「モゲ澤」として知られ、住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇COOに聞きました。(石川智規、白山泉)
住宅ローンの今後の見通しを解説する「モゲチェック」の塩澤崇COO

住宅ローンの今後の見通しを解説する「モゲチェック」の塩澤崇COO

 塩澤 崇(しおざわ・たかし) 日本最大の住宅ローン比較情報サイト「モゲチェック」COOを務める。SNSのX上では「モゲ澤」として住宅ローンを選ぶ上でのアドバイスを重ねている。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、モルガン・スタンレー証券。2015年9月からMFS取締役COO。

◆激しい競争 変動金利は当面変わらず

 ―日銀のマイナス金利解除により、住宅ローンの変動金利が上昇するのではという見方があります。実際はどうなるでしょうか。
 変動金利はすぐには変わりません。さらにいえば、ほとんどの銀行が住宅ローンの金利を当面上げないでしょう。
 住宅ローンを実際に借りる人の金利は「基準金利」という指標で決まります。銀行は短期プライムレート、通称「短プラ」を基準金利としています。この基準金利の過去20年間の動きから考えると、次に変動金利が上がるタイミングは日銀の政策金利が0.1%に上がってからと考えられます。
 ただ、銀行業界ではネット銀もメガも地銀も金利競争をバチバチやっているので、他行が金利を上げない中で金利を上げてしまっては、消費者に悪い印象を与えてしまいます。
 銀行は横並び意識が強い業界でもあります。日銀の政策だけではなく、各銀行の商品戦略などに左右されますが、結論としてはすぐに変動金利は変わらないと考えます。変数が多いので、ふたを開けてみないと正直分からないところもありますが。

◆ネット銀行も「他行の動き」注目

 ―ネット銀行の一部では、マイナス金利解除だけで基準金利を上げるのではという観測があるようです。
 ネット銀行はマイナス金利が導入された時、基準金利を下げました。なので今回、マイナス金利が解除されれば基準金利を上げる大義があります。
 しかし、彼らが金利を上げるのかどうかは別です。ある銀行の担当者は、マイナス金利解除で「上げたい」と話してくれましたが、「他行の動きによる」とのことでした。

アメリカのような4%や5% 今は考えにくい

 ―「金利のある世界」と騒がれています。政策金利が0.1%になって以降は、金利がどんどん上がっていくでしょうか。
 日銀の植田和男総裁のこれまでの発言から考えると、日銀は今回、マイナス金利を解除した後も極めて緩和的な環境を続けるというスタンスです。金融緩和というのは、金利を低く抑えて世の中にお金が回りやすい環境をつくるということです。米国のように4%や5%といった金利になる世界は、少なくとも今の日本では考えにくいです。
 金利というのは経済の体温計だと思えばいいかなと思います。経済が良くなれば金利が上がるし、悪ければ上がらない。米国はまだまだ人口が増えているし産業も強い。雇用にもダイナミズムがある。
 それに対して日本の今や将来はどうでしょうか。高い金利がつくというよりも冷温のままというのが現実という気がします。残念なのですが。

◆固定に借り換える理由それほどない

 ―住宅ローンの変動金利と固定金利、選ぶならどちらですか。
 変動金利です。いずれ金利が上がるとしても、上昇幅は限られます。変動金利は各銀行の激しい競争もあって極めて低い金利が続いています。
 固定金利と変動金利金利差は現在、約1.5%あります。固定金利の方が金利が高い。この差を埋めるには、日銀はあと6回から7回ほど利上げをしないといけません。
住宅ローンの今後の見通しを解説する「モゲチェック」の塩澤崇COO

住宅ローンの今後の見通しを解説する「モゲチェック」の塩澤崇COO

 ―夫婦でペアローンを利用して多額のローンを組む人にとっては不安が広がりそうです。
 変動金利が仮に0.1%上がった場合、元本3千万円の住宅ローンは毎月の返済額が1500円ほど上がる程度。いま慌てて固定金利に借り換える理由はそれほどありません。そもそも、銀行側はローンを審査する際、その人や世帯の返済能力をみています。ローンの額が世帯年収の5倍程度であれば返済できるとみなされています。

◆家はいつが買い時?

 ―これから家を買おうとする人は、いつ動くのが得策でしょうか。
 基本的に、日本は今後緩やかなインフレになっていくはずなので、マネー(現金)を不動産などの資産に変えることは理にかなっています。
 住宅を選ぶ上では、資産性をどう考えるかがポイントです。都市部の人気が高い物件はマネーゲームのような動きがあるので、資産性を重視する人は参戦してもいい。
 一方、郊外は将来的な資産価値の上昇が都市部よりも見込みづらい。それでも、居住性や庭付きの環境、家計のゆとりなどで選ぶ考え方もある。
 資産性を選ぶか、居住性や環境を選ぶか、どちらを選ぶのがあなたにとって幸せですかと考えることが基本でしょう。買い時は自分がいいと思った時ではないでしょうか。

◆金融リテラシーが求められる世界に

 ―これまでのデフレ時代ならばモノよりもお金を持っていた方がお得でしたが、金利が上がる緩やかなインフレ時代では考え方を変えないといけませんね。
 デフレ下はいわば、今持っている現金をいかに握り締めていられるかというゲームでした。インフレ下では、キャッシュをいかに早く資産に変えるかというゲームに変わります。時代の価値観は真逆になるのです。
 住宅ローン金利が上がるから「早く繰り上げ返済をしよう」というのは今後、おすすめしません。昔と違い、今は繰り上げ返済をするくらいなら、投資をした方がましです。なぜなら、住宅ローンの金利よりも、資産運用をした方が利回りが高いからです。
 大切な自分のキャッシュをどう回すか。昔以上に金融リテラシーが求められる世界になってきました。何もしなければ貧富の差が拡大する可能性もあります。ただ、今回の日銀の動きをきっかけに、身の回りの金利やお金について考える機会を増やすのは悪いことではないと思います。