銀行業界に追い風、「金利ある世界」到来-稼ぎにくさは変わらず(2024年3月19日)

17年ぶりの利上げにより最も好影響を受けるのは銀行業界だ。預金と貸出金との金利差である利ざやの拡大が期待できるからで、国内3メガ銀行グループはすでに影響額を試算している。

詳細の条件は異なるが、政策金利ゼロ%の場合、資金利益やそれに準ずる項目への影響は年間で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が450億円程度、三井住友フィナンシャルグループが420億円程度、みずほフィナンシャルグループは350億円程度の押し上げ効果をそれぞれ見込む。

今回、政策金利の誘導目標は0-0.1%に設定されたため、この金額は上振れる公算が高い。政策金利はまだ低水準にとどまっており、金利で稼ぐ力が決算上の純利益の底上げに貢献するには時間がかかりそうだ。

日銀に預けている当座預金に21日から年0.1%の利息が付くことも決まり、残高があれば新たな収入となる。野村総合研究所木内登英エグゼクティブ・エコノミストは1日付リポートで、1月時点の当座預金規模で、超過準備金すべてに0.1%が適用されると「利子収入は1年間で2500億円程度増加する」と試算している。

国内貸出金利ざや

3メガ銀は超低金利環境の中、M&A(企業の合併・買収)などの手数料ビジネスや「非銀行分野」の拡大などで収益を底上げしてきたが、利ざやも改善傾向にある。特に日銀がイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を柔軟化した昨夏以降、その動きは顕著だ。MUFGの場合、国内法人(大企業)向け貸出金利ざや(傘下2行)は23年10-12月期で0.64%と同年4-6月期の0.58%から0.06ポイント拡大。今回のマイナス金利政策解除やYCC撤廃を受け、さらなる拡大余地が出てきた。

利ざや拡大には、低コストの資金調達手段である預金確保も欠かせない。日銀の利上げを受け、各行は預金金利の引き上げも検討することになる。

もっとも、急速なデジタル化の発展で、店舗や預金金利でしか差別化が図れなかった時代とは業界の構図が様変わりしている。便利な銀行口座のスマートフォン向けアプリなどを打ち出して顧客や預金集めを図る銀行も目立ってきており、各行の戦略が分かれそうだ。 

金利水準に変わりなし

全国銀行協会の加藤勝彦会長(みずほ銀行頭取)は14日の記者会見で、マイナス金利が解除されても「その後の急速な利上げは想定しておらず、当面は緩和的な環境が続くだろう」との見方を示した。住宅ローン金利に影響のある短期プライムレートなどは当面、大きく動かないとみている。

3メガ銀の株価は年初から急上昇し、MUFGのPBR(株価純資産倍率)は5日に一時、14年半ぶりに解散価値とされる1倍を回復した。しかし、直近では下落傾向を強めた。3メガ銀の株価について市場ではマイナス金利解除の好影響は織り込み済みとの見方も出ている。

セゾン投信の瀬下哲雄マルチマネジャー運用部長は、「米国のようにどんどん金利が上がって、日本の銀行が米国のような収益性を持つようなところまでは、実態としては難しいだろう」と分析する。

日銀による利上げの影響はプラス面だけではない。今後の利上げペースなどにもよるが、保有国債の価格下落に伴う損失発生のほか、貸出先の返済負担やそれを反映した与信費用の増加リスクなどがある。

全銀協の加藤会長は「邦銀の多くはリスク量を削減するなどポートフォリオのバランスを常に図っている」とし、「金利上昇は、国債などの保有債券の一時的な評価損の悪化を招くものの、日本の金融機関は総じて充実した資本を有している」と述べた。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の伴英康シニアアナリストは「金融市場で短期金利が0.1-0.2%上昇する程度では、銀行の普通預金金利への影響は限定的だ」と指摘。また、今回の政策変更の範囲では「中小企業の返済が苦しくなり、銀行の与信費用が増加することもあまりないだろう」とみている。

地銀、証券会社
金融庁金利上昇に伴う貸出先の返済能力低下など、金融機関の環境変化への対応力検証に動いている。大手行を中心に実施し、預金など流動性リスク管理については一部の地方銀行やネット銀も対象だ。

貸し出し業務では中小企業も含めた国内向けが中心の地銀では、全国地方銀行協会の五島久会長(福岡銀行頭取)が13日の記者会見で、すでに政策変更を前提に対応していると説明。ただ、短期的には保有有価証券の評価損などが発生する可能性も指摘した。

日銀による利上げは、証券会社の収益にとってもプラス要因となりそうだ。国債やその他金利取引の活発化に伴う手数料やトレーディング収益の拡大などが期待される。ネット専業証券では信用取引に関する金融収益の伸びが見込まれる。

 

--取材協力:浦中大我、梅川崇、中道敬、佐野七緒、我妻綾.

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