袴田さん再審結審 長過ぎる手続き見直せ(2024年5月25日『秋田魁新報』-「社説」)

 1966年に静岡県のみそ製造会社専務の一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さんの裁判をやり直す再審公判が結審した。検察側は死刑を求刑、弁護側は無罪を主張した。判決は9月26日に言い渡される。
 ここまでに費やした時間が、あまりにも長過ぎる。死刑判決が確定したのが80年。翌年に行われた再審請求は通らず、2008年に再度行われた再審請求に対して静岡地裁が再審開始を認める決定をしたのが14年だ。その後、地検の即時抗告を受けて取り消しとなったが、23年に東京高裁が再審開始を認める決定を下し、同年10月から静岡地裁で再審公判が進められてきた。
 最初の再審請求から43年もかかっている。迅速な裁判には程遠く、再審手続きの仕組みに不備があるとの指摘もある。問題がなかったのか、検証が求められる。
 警察に逮捕された後、いったん自白した袴田さんは、初公判で否認に転じ、無罪を主張してきた。弁護側は、自白は過酷な取り調べが続けられた結果だとしている。
 刑事訴訟法は再審開始について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」があった時と規定している。袴田さんも無罪になる公算が大きい。
 袴田さんは88歳。長年にわたり身柄を拘束された心身への影響は大きく、代わりに91歳の姉ひで子さんが補佐人として出廷してきた。名誉回復の時間は限られていることを重く受け止めなければならない。
 再審公判の最大の争点は、事件発生から1年2カ月後に血痕が付いた状態でみそ工場のタンクから見つかり、確定判決で犯行着衣と認定された「5点の衣類」だ。
 検察側は、これらは従業員だった袴田さんの着衣であり、本人が犯行直後、タンクに隠したと指摘。弁護側は1年以上みそ漬けされたら赤みが消えるとし、捜査機関が行った証拠の捏造(ねつぞう)だと主張した。
 5点の衣類は、14年の再審開始決定の決め手にもなった。地裁は袴田さんのものでも犯行着衣でもないとして、捏造した疑いを指摘していた。
 今回、検察側は、ほかにも袴田さんが犯人であることを示す証拠が数多くあるとして、有罪の立証を試みた。証拠を捏造したとの指摘に対しても強く反論したが、説得力に乏しく、かえってメンツにこだわるかたくなな姿勢が浮き彫りになった印象だ。
 戦後、死刑事件の再審公判は袴田さんで5例目。免田、財田川、松山、島田の4事件の再審公判でも検察側は有罪主張を維持して死刑を求刑したが、いずれも無罪となっている。
 再審制度は冤罪(えんざい)被害者の救済を目的とする。過去の事件の経緯も踏まえ、制度の在り方をいま一度考えるべきだ。