ドラッグストア統合が問う流通変革(2024年3月10日『日本経済新聞』-「社説」)

 
手を取り合う(左から)イオンの吉田昭夫社長、ツルハの鶴羽順社長、ウエルシアの松本忠久社長=2月28日午後、札幌市
 

 ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングス(HD)とツルハHD経営統合への協議を始める。売上高が2兆円を超す巨大チェーンが誕生する見通しで、価格競争力だけに頼らない流通経営の確立を期待したい。

 ツルハHD株の13%強を保有するイオンが、香港の投資ファンドから同社株約13%を譲り受けることで合意した。27年末までに株式交換でツルハHDがウエルシアHDを完全子会社にして、イオンがツルハHDを連結子会社にする。

 これでドラッグストア市場の4分の1を占める巨大チェーンが誕生する。将来は売上高を3兆円に引き上げ、アジア首位の座を目指すという。

 イオンはこれまでドラッグストア以外にもスーパーの再編を進めてきた。狙いは規模の拡大を追求することだ。価格の支配権をメーカーから奪い、消費者に値下げで還元することを訴えてきた。

 イオンが傘下に置いたダイエー型経営の踏襲だ。デフレ経済が本格化する2000年代ごろまでは有効な考えだったが、価格競争力に頼るだけでは今後の日本経済の方向にそぐわない面がある。

 いまやドラッグストアは売り上げで食品の構成比率を高め、スーパーなどとの価格競争を展開している。節約志向の強い消費者にはプラスになる一方、価格の下押し圧力になっているのも事実だ。

 人口減が進む中、過度な価格競争は取引先を含めた消耗戦を招くだけだ。多くの雇用を抱える小売業でも賃上げは欠かせない。

 統合後は規模の利益を生かしたデジタル化などで経営効率を高め、高付加価値の品ぞろえやサービスの提供をより重視すべきだ。

 両社は統合後、アジアを軸に世界戦略を強化するとしている。だが医薬品は国や地域によって規制も違い、実現は容易ではない。

 ハードルは高いが、国内の成長に限界がある以上、海外での市場開拓の準備は必要だ。今回の再編が流通業の変革につながることを期待したい。