夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は「個人の尊重」や「両性の平等」を保障した憲法に反するなどとして、30~60歳代の男女計12人が8日午前、国を相手取り、別姓のまま結婚できる地位の確認と1人当たり50万円の損害賠償などを求める訴訟を東京、札幌の両地裁に起こした。
【図解】長い歴史のある日本の戸籍…新たな問題も
夫婦別姓を巡っては、同じ弁護団が別の原告グループで過去に集団で裁判を起こしており、今回が3回目。最高裁大法廷は2015年と21年、同規定を「合憲」と判断したが、原告側は「最高裁の判断後も社会情勢は変化しており、別姓を認めないことの合理性は失われている」と訴えている。
原告は東京都や北海道などに住む事実婚と法律婚の夫婦6組。5組が東京で、1組が札幌で提訴した。別姓が認められないことで、結婚前の氏名の時に得ていた信用や評価が維持できなくなるといった不利益があると訴えている。
原告側は訴状で、現状は「姓の変更か、姓を維持するために結婚を諦めるかの過酷な二者択一を迫られている」とし、改姓による不利益は重大で、個人の尊重を定めた憲法13条などに違反すると主張している。
15年の最高裁判決は「夫婦同姓には家族の一体感醸成の意義がある」などとして同規定を合憲とし、21年の最高裁決定も「判断を変更する理由はない。国会で論じられ、判断されるべき事項だ」とした。ただ、裁判官15人のうち、15年は5人、21年は4人が「共働きが急増する中で、夫婦とも改姓せずに氏名を使う重要性は切実なものになっている」などと述べ、違憲とした。
原告側は、最高裁の判断が出た後、選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書を採択した地方議会は増え、1月時点で全国296議会に及んでいるほか、日本経済団体連合会も同制度の導入を政府に要望するなど、夫婦別姓を求める意識が高まっていると訴えている。
寺原真希子・弁護団長は提訴後、「国会は一向に動かない。今度こそ司法の場で解決してほしい」と話した。
夫婦別姓求め国を提訴、東京・札幌で12人-変化追い風と弁護団(2024年3月8日)
(ブルームバーグ): 夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定は憲法違反に当たるとして東京都や北海道などに住む男女12人が8日、婚姻前の姓を維持したまま結婚できることの確認や、1人当たり50万円の損害賠償を国に求める訴えを東京地裁と札幌地裁に起こした。
原告らは、姓の変更はアイデンティティーの喪失感をもたらし、婚姻前の自身に対する信用・評価を維持することが困難になるほか、名誉感情などが損なわれ、当事者は重大な不利益を受けることになると主張している。
東京地裁で提訴後に報道陣の取材に答えた原告の小池幸夫さんは、妻の内山由香里さんと三十数年前に結婚。互いの人格を尊重するため、出産などに伴って結婚と「ペーパー離婚」を3回繰り返した。「別姓に反対する人は、家族の一体性が失われるなどいろいろな理由を挙げるが、少なくともうちの家族に限ってはそういった懸念事案は1件も起こっていない」とし、「逆に選択的夫婦別姓が認められれば幸せになれる人がたくさんいる」と述べた。
弁護団が関わった集団訴訟は3回目だが、最高裁大法廷は15年と21年にいずれも現行規定を合憲と判断した。同弁護団は、最高裁が合憲と判断した3年前と比べ、経済界や社会の意識に変化があったと説明する。
寺原真希子弁護団長はブルームバーグの取材で、「三度目の正直」を期待しているとし、社会や世論の変化を踏まえると「憲法違反と判断するための材料は十二分にそろっている」と指摘。女性の労働人口が増加していることに加え、晩婚化により結婚前の姓で積み上げたキャリアの期間が長くなっており、女性が婚姻で姓を変更することによって被る不利益が増えていると述べた。
国際女性デーに合わせた今回の提訴の理由については、夫婦同姓を定めた民法と戸籍法は不利益が女性に偏り、不平等な価値観が再生産されているためと説明する。内閣府の公表資料によれば、法律婚をした夫婦のうち約95%が夫の姓を使用している。