給食嫌い(2024年3月8日『熊本日日新聞』-「新生面」)

 小学校の給食が苦手だった。好き嫌いが激しかったからだ。時間内に食べきれず、教室の後ろの方に残されて食べ続けることも多かった。友達から「早く食べろ」とせかされるのも、「頑張れ」と励まされるのも嫌だった

▼自宅では、嫌いな食べ物を口元に押しつけられたりもした。行き過ぎた「完食指導」である。偏食は成長するとともになくなったが、あのころ無理強いされた食べ物は今も口にしない。嫌い、というより、何だか憎らしいから

▼「食べ残しゼロ」の取り組みは今も小中学校で行われているようだ。食の大切さを知り、適量を食べることは確かに大事だろう。けれど、無理強いはよくない。学校での指導をきっかけに、人前で食事ができない会食恐怖症になる人もいる

▼給食を巡っては、別の痛ましい事故も起きている。福岡県みやま市では2月、小学1年生が給食を喉に詰まらせて亡くなった。ウズラの卵が原因とみられている。同様の事故は、かつて他県でも起きていた。防ぐ方法はあったろう

▼給食を通して食の大切さを学ぶのは、平たく言えば生きるためだ。命を奪う給食など、あっていいはずがない。個性を無視した過度の指導も

▼年を重ねると、学校給食とは別の心配事も出てくる。高齢者施設などで出される食事のことだ。「無理強い」はなかろうが、空腹感が強かったり、食べるのが遅かったりすると本人も介助する人も大変だろう。好きな物を自分のペースでおいしくいただく。それができる日々の何と幸せなことか。

 

拒食症や不登校も 給食「完食」指導でトラブル頻発 - 日本経済新聞